きょうは11月11日の
FSM Veterans of Foreign Wars Dayの振り替え休日、「
外国の戦争で戦ったミクロネシア出身退役米軍人の日」なんていうヘンテコな名前がついた休日が制定されたのは4年前で、イラクで戦死したり瀕死の重傷を負うミクロネシア人志願兵が続出してからだ。(参照:
君死にたまふことなかれ)
本家アメリカの
Veterans Day(退役軍人の日)も11月11日で、そもそもは第1次世界大戦でドイツ軍と連合軍との間で休戦協定が結ばれた日(1918年11月11日)だそうだ。首都のポンペイでは米国大使館と一緒になにか行事があるかもしれないが、ヤップでは何も行われないから、わたしのまわりのヤップ人も、直前まで週末の土・日・月が三連休になることを知らなかったのが多かった。
ところで右上や左の写真は、ただいまヤップに入港中のミクロネシア連邦・巡視船
Independence(以後インディペンダンスと書く)だ。日本でニュースになっている通り、沖縄の漁船を拿捕してきて、いま
ヤップ州漁業公社(以後YFA)の岸壁に泊まっている。
先週末、YFAの岸壁に見慣れない漁船と巡視船がいるのをボートの上から見て、またどこかの漁船が拿捕されたんだなとは思っていたが、このブログの読者から
琉球新報の記事を教えてもらうまで、それが日本の船だったとは気づかなかった。今朝まで読めたその記事はすでにリンク切れになっているが(早っ)、以下のサイトで元記事が読める:
http://mobile.seisyun.net/cgi/read.cgi/newsplus/mamono_newsplus_1226208104/1
http://gimpo.2ch.net/test/read.cgi/news5plus/1226213976/-100
http://k-c.mine.nu/np/view.php?id=1218328
現在、
ミクロネシア連邦が所有する巡視船は5隻あり、いずれも150~160トン・クラス、20ノットくらいは出せるし、迫撃砲やマシンガンを装備している艇もある。彼らもなかなか頑張っていて、「獲物」がヤップ州領海内で獲れたときは、ヤップに連れてきて裁判となるわけだ。(参照:
漁船拿捕)
それで午後からYFAの岸壁に行って、まずインディペンダンスの甲板にいたクルーに事情を聞いた。以下はその要旨:
①まずグアムの米国沿岸警備隊から連絡を受けた。FSM(ミクロネシア連邦)の領海警備は米国沿岸警備隊とタイアップしているからね。
②問題の漁船を臨検したのはオリマラオ(Olimarao)環礁から12海里以内のミクロネシア連邦領海で、11月4日のことだ。そのままヤップに連れてきた。
③俺たちだって、うっかり領海内に入ってしまう船まで捕まえたりはしない。今回はグアム・ベースの米国沿岸警備隊の連絡を受けて、ずっとこの船をマークしていた。裁判になったら明らかになるけど、おかしな表示をするGPSだけじゃなく、この船の不審な証拠はまだ他にもたくさんある。
④このインディペンダンスには日本語が話せるクルーも乗っている(JICAのトレーニングで、日本の大手漁業会社の漁船に乗ってたのかな? by suyap)けど、ここのYFAにいるOFCFの日本人が、(拿捕された)船長の通訳をしている、っていうか、彼らはどうも船長の側に立って助けているようだ。
わたしが、
海抜数メートルしかないサンゴ礁島がたくさんある海域を、壊れたGPSでマグロ延縄の操業が出来るなんて、その船長はミクロネシアの伝統航法を身につけてるんじゃないの?と言うと、クルーは大笑いしてたけど、今の時代に壊れたGPSもなおさずに、遠洋で操業する漁船があるだろうか?
それとも、
ロランCを使っているのだろうか?GPSが登場するまで大活躍したロランCの硫黄島の基地も新島に移され、運用主体も縮小されて米国から日本に移管されたというが、低緯度の北西太平洋でもまだ使えるのだろうか?(実は1980年代までヤップにもロラン基地があった)。だが仮にロランCを使って位置を出していたとしても、「その絶対的な位置精度は、ロランCでは数百m、GPSの民生利用では数十m」(
ロランCのQSLカード)という精度らしいから、
うっかり何度も領海侵犯しちゃいましたってのは、まず通らないだろう。
さて今回その領海内で拿捕となった
オリマラオ環礁は、北緯7度43分、東経145度52分に位置する小さな環礁だ。写真の右上に見える陸地の、一番長いところの端から端までさえ1キロもない。19世紀にはまだ人が住んでいたようだが、現在は無人島となっている。太平洋戦争中、日本海軍はここに密かに飛行艇基地を構築していた。
この近辺には、
イファリク環礁(Ifalik, 7.15N 144.27E)、
エラト環礁(Elato, 7.28N 146.10E)、
ラモトレック環礁(Lamotrek, 7.46N 146.39E)などの有人環礁島や、たくさんの浅瀬が散在していて、無人の
オリマラオ環礁も含めて、伝統的に近隣の島々に住む人々の大切な漁場となっている。
そんな場所で、米国沿岸警備隊の警告を無視して10月20日にグアムを出航し、壊れたGPSもそのままに、操業していたわけですか?臨検&拿捕が11月4日なら、すでに漁期も終わりに近かったはずで、船倉には塩氷に浮いたマグロがいっぱいあるのでは?(日本市場に鮮魚として出荷されるマグロは冷凍にせず、氷に海水を入れた船倉でチルド状態にして保存する)。
そこで、インディペンダントと並んでYFAの岸壁に泊まっている拿捕船・大幸丸に行き、船長さんに会って話を聞いてみた。船長とクルー、当局以外の人間は船に乗り込めないけど、船長は船の外の岸壁までは出てこれるみたいだ。以下はその要旨:
①今回グアムを出航する前、米国沿岸警備隊が、前回の航海で2回ほどミクロネシアの領海侵犯をしたので、ミクロネシア側にも知らせたよーと連絡してきた。そのときGPSを見てみたら、ちょっと狂ってるのがわかった。
②米国沿岸警備隊には、ミクロネシア側に知らせたけれど、その後どうするかはミクロネシア警備隊次第だと言われた。
③機械の故障でちょこっと領海内に入ってしまっただけなのに、1億円は高すぎる。
④親会社の入っている保険はある。グアムから(親会社に雇われた)アメリカ人の弁護士も到着した。機械の故障でうっかり領海に入ったのだから、保険が下りるはずだ。それにしても1億円は高すぎる。←故意で領海侵犯したのだと保険は下りないのだろう…
⑤11月27日まで船にいろと言われた(下りても行動範囲は桟橋など近辺のみ)。食料はクルーの分を含めてまだ船に十分ある。
⑥たまたま娘さんの配偶者の兄弟が琉球新報におり、日本のメディアでも大分知られてきていると思う。機械の故障なのに、こんな法外な賠償金が許されてはならない。
とのこと。人が良くて元気なウチナーのおっちゃんという感じの人だったけど、それにしてもなあ…。
わたしの方から言ってあげたことは、
①この国は米国沿岸警備隊と共同で、衛星を使って領海内で操業する船舶を監視していること。
②操業許可を取って200海里排他的経済水域(EEZ)内で操業する漁船は、インマルサットの装備ならびに常時接続を義務づけられていること。これによって当局は許可船舶の位置を監視していること。
③この国が発展途上国だからと軽く見て、日本政府やJICA、OFCFなどを使って事態を切り抜けようとするような態度は、よけい印象を悪くすること。検察側の弁護士にはアメリカ人がおり、双方の弁護士同士でうまく示談が進むように協力したほうが良いだろうこと。
などを伝えて、プリントした琉球新報の記事を渡してきた。(そのせいで、早々琉球新報の記事が消えたのかな?)。
その琉球新報の記事だけど、気になる部分がいろいろあったので、以下それぞれにコメントしてみる。記事引用部分は赤字、元記事はこのブログの上にリンクしたサイトで読める(サイトによっては全文ではないので注意):
船長は「GPS(衛星利用測位システム)の誤差で領海内に誤って進入した。故意ではないのに法外な罰金はおかしい。今後どうなるか分からない」と心配そうな声で語った。
~~中略~~
当局から「GPSが約30マイル(約48キロ)ずれている」と指摘され、
(suyapコメント)上に書いた船長との会話にも出たように、「故意」の領海侵犯では保険が下りないから、ここはなんとしてもGPSが壊れたと主張しなければいけないのだろう。もし
30マイルのGPSのずれを指摘したのがほんとうに「当局」であるなら、このマイルは海里(NM)、1海里は1852mだから、30海里は約55キロ強となり、また1海里は緯度経度の1分にあたることので、こんなに狂ったGPSでこの海域を航行することがいかにクレイジーなことか、よくわかる。上に書いたけど、拿捕された地点近辺の各島の位置をもう一度書いておく:
イファリク環礁 7.15N 144.27E
オリマラオ環礁 7.28N 146.10E
エラト環礁 7.43N 145.52E
ラモトレック環礁 7.46N 146.39E
30海里=30分もずれちゃってたら、いくらなんでも気づかないわけがないし、この海域で操業するには危なすぎる。
船長によると、大幸丸は約20年前からグアム島を漁業基地として操業しており、ミクロネシアから200カイリの漁業制限水域内での漁業権を取得し、マグロなどを捕って日本へ輸送している。
(suyapコメント)大幸丸はマグロ延縄漁船。水揚げ施設や空輸を考えると当然グアム・ベースのほうが便利なので、現在ではミクロネシア海域で操業するマグロ船のほとんどがグアムで水揚げしている。ということはミクロネシア連邦にはEEZでの操業許可料しか落ちないわけで、その上に領海侵犯までしてサカナをもって行かれたんじゃ踏んだりけったりだが、たった5隻の巡視船で広大な4州の海域を動き回っても、検挙できるのはごくわずか、それを知った上での悪質な違法操業、あるいは確信犯的なニアミスは、いわば野放し状態だろう。
グアムで水揚げを行った際、米沿岸警備隊から「10月9日と11日にミクロネシアの領海を侵犯したおそれがある。同国側に通報した」と通告された。水揚げ後の10月20日、再出航した際、漁業制限水域内を航行中にミクロネシア連邦当局から臨検を受け、拿捕された。
(suyapコメント)そこまで親切に警告を受けながら、なぜ出航したのか…?GPSの故障に気づかず領海に入った恐れがあったと気づいたのなら、出航しないで、グアムで弁護士を通して申し立てができたのではないか?ミクロネシア連邦当局を甘く見たとしか思えない。小さな漁船主は、そこまでリスクを犯して自転車操業を続けなければやっていけないのだとしたら悲しいことだが、これは日本の問題だ。大手漁業(買い付け)会社(ならびに彼らがつくる財団
OFCF)→中小の漁業組合に所属する漁船→労賃の安い外国人船員という構図で太平洋の日本行き空飛ぶマグロが獲られていることを、店頭に並ぶマグロを見るたびに認識していただきたい。
2回にわたる領海侵犯をしたとして1回5000万円の計1億円の罰金を命じられた。
(suyapコメント)ミクロネシア連邦の領海内で検挙された不法操業は、1件5000万(50万ドル)というのが相場みたい^^ 水揚げしたマグロの売り上げは相当なものだから、そんなに高いともいえないようで。大きな会社だと、勝てたかもしれない裁判でも、さっさと5千万円の現ナマを重役が担いできたことがある(参照:
漁船拿捕)。
船長によると、ミクロネシア当局の担当者は普段は笑顔で会話をするが、友井船長らの航海日誌や船の図面などの資料を奪おうとするなど、対応に疑問を感じるという。
(suyapコメント)拿捕なんだから(陸上の人間に対しては逮捕というけど)、航海図誌は押収されるのが当たりまえ^^ 船に滞在することが認められただけでもありがたく思わなきゃ。あ、ミクロネシアの役人が「笑顔で対応する」のは、日本の税関がとても親切だけどシビアに仕事するのと一緒。高圧的オイコラのアメリカ官憲とは違って、まあお互いアジア人ですから(笑)。
さて両方の言い分を聞いてみて、ミクロネシア連邦のEEZでは、中国や韓国の漁船に混じって
日本漁船もたくさんアクロバット操業してるんだなあ…というのが、今回わたしが持った感想だ。アクロバット操業というのは、近くに巡視船がいないからバレないだろう、大丈夫だろうと、12海里領海スレスレまで
知ってて接近するということで、実際にほとんど
大丈夫だったのだろう。しかし現在はすべての操業許可船の位置はマークされ、記録されている。あまりにもアクロバットが過ぎると、今回のケースのように挙げられる。
実は日本の海上保安庁や水産庁も、日本領海内でも同じことをやり、ミクロネシアの巡視船スタッフと同じ悩みを抱えているようで:
平成19年の水産庁による外国漁船取締実績について
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kanri/080129.html
密漁船との闘い
http://www010.upp.so-net.ne.jp/kawadai/special/fish_e3.html
というわけで、今件について日本のマスコミが流している文言はまったく的外れ、これがミクロネシア側に知れると船長のためにもならないだろう。100歩譲って侵犯が故意でなかったとしても、米国沿岸警備隊とミクロネシア連邦巡視船の記録は覆せるものではないし、違反は違反である。しかも場合によっては、親会社と保険会社が下請けの船長を見捨てる可能性だってあるだろう。
これからどういう展開になるか裁判を待つしかないが、間違っても
シンキロー(モリヨシロウ←漢字で書くとyahoo検索八分されてるから)のおっさんなど薄汚い政治家に働きかけ、「援助」をちらつかせながらミクロネシア連邦のビンタを張って意を通そうとするような展開にはならないことを祈る。そうなるとミクロネシア人は「
笑いながら」従うだろうけど、彼らの心は日本からどんどん遠ざかっていくばかりだ。そんなことになったら、
OFCFよ、恥を知れ!と、わたしは叫びまくるだろう。
(付録)
たぶん2チャンネルのコピーだと思うけど、↓ ↓ から拾った気になる書き込みをメモ:
http://nika.sakura.ne.jp/2nv/exview/thread.cgi?url=http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1226208104前例もあるし、何隻もの日本船が恒常的に
違反操業を繰り返して、マグロを密漁してたんだね
我慢しきれなくなったミクロネシア当局が
厳格に取り締まりだしたと
今回つかまったのもきわめて悪質
二度の進入を警告された後で
拿捕された当時も、漁業制限海域でつかまってるし
日本人密漁者の群れが、ミクロネシアのマグロを
当局の制限無視してとりまくってる状態
これでは、ミクロネシア人が怒るのはしかたない
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これって、航路から見て意図的な領海侵犯だったから、
アメリカがわざわざミクロネシアに通報したんだろ。
それを、GPSの狂いとか言い逃れしてるのは、もっと悪質。
だったらGPS狂わせれば、領海侵犯漁やり放題になってしまう。
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マグロ買い付けしてる大手水産会社に言わされてるんだろ
マルハとか大洋とか
中小の業者に取らせて、安く買い叩いて日本にもってきてぼろ儲け
汚れ仕事は、下請けの遠洋業者にやらせて
実際の仕事は、フィリピン人や台湾人つかって
のうのうと、東京でピンハネ
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
よろしかったら
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