ヤップ近海の7月は、一年中でもっとも海況が安定する時期。ずっと穏やかなお天気と海が続いており、
行くなら今!という気持がどうにも押さえきれなくなったので、
シピン行きを決行することにした。
この油代高騰の折に、なんとも贅沢な行為だと我ながら呆れるが、止めてくれるなおとっつあん、ベベンベンベン(笑)、無風でザンザカ降る雨が弱まるのを待って、午前7時50分、ボートはマリーナ桟橋を出発した。左上の写真は、
マアプと
ルムングを進行方向左手に眺めながら北上中にパチリ。
ヤップの伝説では、
シピン(Siipin)は、ヤップと言葉を同じくする人々の住む「島」だったが、ある日突然、海底に沈んだという。海図上ではハンターズ・バンクとなっており、ヤップ島の真ん中あたりから
シピンの南端までの距離は約25海里(46.3キロ)くらいだ。下の写真は、その
シピン南端からヤップ島を望んだところ。写真ではわかりづらいけれど、肉眼では
ファニフ、
ダリペビナウ、
ウェロイの高い丘がはっきり大きく見えた。(
近隣の島々概略図)
今回は、数日前に行った連中が海底に引っかかった魚網を発見したというので、そのインスペクションにと海洋資源局長が自ら資源局の高速ボートを出してくれた。燃油と予備あわせて約50ガロン(ドラム缶1本に近い量!)$300.00をわたしが提供し、
シピンへの経験が豊富で海への勘に信頼の置ける、釣りが3度の飯より大好きなローカル男をあと2人招待して、総勢4人で出発となった。
さすが高速ボートだけあって、25マイルの距離を1時間半で乗り切り、ヤップの上にかかっていた雨雲もすっかり切れて、
シピンの南端に到達するころには、薄日が差し始めた。しかもGPSのお陰で目当ての魚網にも1発であたり、一行の気分は高まった。
魚網が引っかかっている海底は38mから40mあり、そこから竹竿に浮玉を通したものに吊り下げられるようにして、魚網の半分が中層に立ち上がるような形で浮いている。その先に長いロープが連なり、これも峯打って水中を漂っている。
シピンはヤップ近海の最高の漁場であるが、ゲストを連れてここでダイビングをしようというサービスはまだない。海さえ穏やかなら片道1時間半から2時間くらいの距離だけど、そんな時期は1年のうちのわずかしかないし、上記のような燃油代がかかるし、そこまでして潜っても大物に当たる確率は、そんなに高くない。また棚の上でも水深が30m前後になることが多く、突然流れが変わったり強まったりするので、かなりのダイビング経験を要求される。というわけで、今回のわたしのように、完全に「
商売抜きの趣味の世界」にとどめて楽しむほうが良さそうだ。
この流れ着いた魚網が「漁礁」の役割を果たしているせいか、潜降を開始してすぐ、
ブラックフィン・バラクーダ(
Sphyraena qenie)のお出迎えを受けた。
シピンにしては珍しく、わずかばかりサンゴも育っていて、そこには
コショウダイの仲間など、根つきのサカナが集っていた。
魚網の上部分の様子↑と、下の部分↓
その脇には、この網に設置されていたラジオ・ビーコンが沈んでおり、それを回収・有効利用したいというので、手伝った。
今回わたしと一緒に潜った彼は、絡まっているロープを切りさえすれば、ビーコンは付属の浮によって自力浮上すると踏んでいたようだが、長い間の嵐や大深度によって、浮は完全につぶれていた。20キロ以上もあるビーコンを40m近い海底から持ち上げるという思いがけない作業が加わったので、わたしたちには、ゆっくり景観を見回す時間はほとんど無くなってしまった(涙)。
そして、↓これが引き上げたラジオ・ビーコン。これの有効利用とは、黒い浮の下のステンレス円筒部分の中のラジオ機器を取り除き、ここにディーゼル油を入れて、フィッシングの際のトーチにするのだそうだ。ミクロネシア人の手にかかったら、廃物はなんでも再生利用できる。
金具部分の刻印やプラスティック・ラベルを読むと、どうやらこのビーコンは日本の漁船から流れたもののようだ。いったいどこから流れてきたのだろうか?
1ダイブが終わると次はフィッシング・タイム。幸いチョボチョボ鳥山が立っていたので、男達はそれぞれのラインを流し、たっぷり時間をかけてボートを北に走らせていった。
シピンは南北に細長い瀬だ。南端から北端まで3~4キロはあるのではないか?北端近くから望むヤップは、ファニフの3つの丘が見えるくらいに小さくなっていた。
2ダイブ目はできるだけ浅い場所を探していたけれど、結局入った場所の海底も、やはり30mあった。またエントリーしたときには止まっていた潮が、30mの海底に到達する頃には、つかまってないと流されてしまうほど強くなっているのには、驚いた。これだから
シピンのダイビングは侮れない。
今回は海底の砂、サンゴのかけらなどのサンプリングと、写真撮影という使命を帯びていたので、怒涛のような強流の中、30mの水底に必死でつかまりながら、ともかく撮った写真は設定が間違っていて、みなブルーのフィルターがかかってしまった(笑)。
それはそうと、こんな強流の中で多くのサンゴが
オニヒトデの食害にあっていたのには驚いた。左上の写真は、ハナヤサイサンゴの仲間とミドリイシの仲間。
ヤップ島の20メートルくらいのところでは数メートルにもなる
コブハマサンゴも、ここ
シピンでは、大きくても30センチくらいのしか見当たらず、それもこんなに食われていた。浅い場所から水底を見下ろすと、白い斑点がずーっと広がっているのが見える。
根つきのサカナにとっては隠れる場所がどこにもないから、当然こんなところには住めないのだろう。なんとなく殺伐とした荒野のような情景、
シピンの海底にはこんなところが多い。左はソフト・コーラルの仲間。
海況やコストの面から、そうそう気軽に来れる場所ではないが、年に1度でも潜れるときに潜ってデータを取っておきたいと思う。いったい
シピンの全体像はどんな感じになっているのか、海底遺跡はあるのか、ああ潜水艇で一周したいなあ...(笑)
やや陽も傾いた帰りは、鳥山もたくさん立っていた。
シピンとヤップの中間点に達した頃、ヤップから小型ボートも何隻か来て、鳥山の中でトローリングをしていた。われらがボートの男衆3人も、懸命にラインを流すが...とうも当たりが芳しくない。わたしは、みんなの思っていることがわかっていたので、黙って寝たフリをしていたけれどね。
ヤップがかなり大きく見えるようになったころ、キャプテンの海洋資源局長が、
もうきょうはこれで打ち止めにして、さっさと帰ろうぜ、と言い、男衆はみんな同意。午後5時ちょうどに、マリーナ桟橋に帰還した。
これが本日の釣り果デス。左から2番目がカツオで、あとはみな小さなキハダマグロ。この後、みんなで少しビールを飲んだのだけど、ひとりが控えめにこう言った:
今度シピンに行くときはな、ボートを2隻出そうぜ。どうもダイビングとフィッシングという2つの目的を持ったために、何かが狂った気がするんだ。やはり2つを追ってはいかんのだろうな...
わたしが札付きのバッドラック・ウーマン(誰かがフィッシングに行くことをわたしが知っただけで釣れなくなる。まして船に同乗させるとは...!)であることは、おそらくみんな知っている。わたし自身も、やっぱりな...と改めて納得したのだから、このジンクスは本物だろう。ごめんね、みんな。今度からボート分けるから、これに懲りずに、また
シピンに連れてって!
(追記)
やはり
シピンには神さんがいるのかもしれない。わたしのカメラがどうも調子悪かったのも、そのせいかな。今度からは、潜ったり、釣りをしたりする前に、まず
シピンの神さんにご挨拶しておこうと思う。
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