ヤップデイのハイライトのひとつは、なんといっても踊りだ。今年は口開けの踊りを入れると12の踊りが披露されたが、そのうち8つが女の座り踊りだった。派手な動きのない座り踊りは、現代ニホン人や外国人にとっては初めてお能を見るようでたいくつだろうが、これこそヤップ独自に洗練された伝統の踊りなのである。
今年はどこの踊りがよかっただの、どこの唄い手の声がよかっただの、ヤップデイの後しばらく語り草になる。去年のダントツ評価は
ルム村を中心にした
ファニフ勢だったが、今年は
ルムング勢の踊りに軍配が上がりそうだ。
ルムングにはうちのスタッフや友人が多いので、かぶりつきの席をゲットしてビデオをまわした。上の写真は
シロウェ・サモェルという踊りだそうで、
万物をお守りくださる神さんにありがとうってくらいの意味らしい。
上の写真は同じく
ルムングの
カンタイという踊りだ。あるとき
ルムング選出州議会議員のRさんに、
カンタイという日本語の意味を教えてくれといわれた。この踊りのタイトルが
カンタイなのだが、ニホン語世代が途絶えた今では意味がわからなくなっているという。ストーリーから察するとどうやら「艦隊」のことらしい。
太平洋戦争中、
ルムングをはじめヤップ島のまわりは米軍の艦隊に包囲され、1944年の4月から9月頃まで、ひんぱんに艦砲射撃を受けた。何が何やらわからないまま、住民は海岸を立ち退かされ、内陸の防空壕に隠れて海にも畑にも出られずひもじい思いをしながら震えていた。この踊りはそういう体験を伝えているものだろう。ヤップにはこういう太平洋戦争を題材にした踊りが多い。今年のヤップデイでは他の村の戦争踊りも披露されていた。
↑↑こちらも
ルムング、
チャイナングという踊りで、ややリズミカルな可愛い振りもある若い女の子が主体の踊りだ。前半8割がたは座り踊り(
プルブット)で、最後の10分くらいが立ち踊り(
サキ)になる。先生役のオバチャンは
今回はあまり練習をしていないのよと言っていたが、声も通っていたし首もそろっていたし(ヤップの踊りでは首の動きが大事なのです)、素人のわたしが見てもなかなかの出来だった。
今回は踊りはビデオばかりで、スチルの写真はほとんど撮っていなかった。ビデオをDVDにダビングして、それからキャプチャしているので(
それが理由か?)画がシャキッとしないですなあ(トホホ)。
左の写真と右下は、去年ダントツ評価を受けた
ファニフ地区の
ルム村主体の踊り。去年は大勢のオトナの女性が参加して圧巻だったが、ことしは若い女の子が中心。とはいっても、さすがに常時練習しているだけあって、声が伸び踊り手の息もあってて上手い。左のは座り踊りで、
右の写真以下3点が棒踊り(
ガメル)。ほとんどの
ガメルは男の子と女の子の混合で踊られるのだが、
ルム村は女だけの
ガメルを持っている。うちのパートスタッフの
タマちゃんによると、上の座り踊りと、この
ガメルは
教会の踊り(カソリック)なのだそうだ。去年は彼の奥さんが
ルム村のひとつの踊りの唄い手をやり、聴衆はみんな彼女の唄声にしびれたのだけど、ことし彼は
寝たきりのふた親を抱えて忙しいから踊りに参加するなと言ったんだそうな。とはいえ娘が踊っているのに
教会のだからなあとあくまで
タマちゃんの関心は薄いようだった。去年の熱意に比べてこの落差は、おそらく家事の忙しさだけではない。たぶん踊りの言いだしっぺが誰かにもよるのだろう。
もともと
ガメルはヤップのずっと東(今のチューク州あたり)で発祥した戦いの踊りで、本来は男のものだった。それがヤップ島に伝わると、いつの頃からか重い木の棒が竹に変わり、ニホン統治時代の学校で男女混合で踊られるようになったという。
本来ヤップの踊りは男女が混じって踊られることは無かったし、座り踊りなど地味なものが多かったが、おそらく
外国人が見て喜ぶものをという要求から、座り踊りを男女混合の
ガメルに編成しなおす-ということが一般化したものと思われる。それが始まったのがニホン統治時代であっても、
このヨソモノの要求は現代ではツーリズムというプレッシャーとなって続いている。したがって厳密には
ガメルはヤップの正統な伝統踊り(
チュル)ではない-という見方もあるのである。
こういう経緯がある
ガメルを、外国人やヤップ人までが、バンブー・ダンスなどいい加減に訳したり言ったりする傾向を、わたしは嘆かわしく思っている。今回のヤップデイで披露された
ガメルは、この
ルム村のと、
マアプ地区
ウァロイ村のもの2つだけだった。
さてその
マアプ地区
ウァロイ村では2つの座り踊りも披露していた。わたしがヤップに来てすぐの頃からたいへんお世話になったおばあさんがこの村の出身で、80歳後半の年齢に達しても生まれ村の踊りの面倒をよく見ていたものだ。他の座り踊りがだいたい30分前後で終わるのに、この村の踊りはどちらもそれより5分以上長かった。
派手な動きもなく、浪々とした謡にあわせてゆっくりと手や首を動かすのは、小さい子供にはたいへんだろう。しかし、こうして小さいうちから踊りのしぐさを身につけておくと、美しい姿勢や身のこなし、長い呼吸法など、ぜったいに実生活に役にたつと思うよ。
亡くなったおばあさんのちょっとした仕草の美しかったことや、
わたしヤップの踊りがほんとうに好き!昔は女が集まるといつも座り踊りをしていたよという言葉を思い出しながら、感慨深くこの踊りをビデオに納めた。
(追記)上記
マアプ地区
ウァロイ村の2つの女の座り踊りの名前とストーリーが判明:
マアプのあるおうちにヤップデイで撮ったDVDを持っていってみんなで見ていると、「スー、
セイロハンって知ってるだろう?」って聞かれた。「えっ?正露丸(ヤップで売ってるのです)?」(笑)。しかし踊りはどうやらコプラを削ってヤシ油を作る作業を描いているようで、
セイロハン、ムケレウ、ムケレウ(セイロハン、削って削って)というフレーズが入っている。
セイロハンとは
食量班のことなのか、
青労班(青年労働班)なのか?食糧難の戦中に、兵隊の’ために大量のヤシ油を作らされた状況を踊りにしたものだろう。
もうひとつの踊りは
マラングという、
ウァロイ村と
チョール村の境の海中に立つ2つ岩の話。天からヤップ人の踊りを見にきていた半人半神の男女が、天に帰れなくなった挙句に岩になったという悲しいストーリーである。
左と右下の写真は
ガギル地区
ワニヤン村の座り踊り。
ワニヤン村はもうひとつ女の座り踊りを出したのだけど、
ガチャパル村の女4人でやった口開けの踊り(
ティヨル)と最初の踊りを撮ったテープを、うっかり消してしまった!バッテリー切れで撮らなかった初日の
マアプ地区
ウァロイ村の
ガメルを含めて3つの踊りの記録ができなかったのはちょっと残念。
こうしていろんな村の踊りを並べてみると、踊り手たちの衣装に村ごとの工夫がそれとなく施されているのがわかる。腰みのだって材料によっていろいろな違いがあるし、それは主体を占める踊り手の年齢によっても違ってくる。ヤップデイに賛否両論はあるが、こうして踊り継ぐ機会を設けなかったら、着こなしどころか腰みのの作り方すら若い世代には忘れ去られてしまうだろう。
そしてヤップデイ2日目の締めは、今回唯一の男の踊り、
マアプ地区
アミン村の面々だ。わたし自身も腰みのを着ていたので男の踊りの真ん前に陣取りたくなかった(
腰みのを着るとヤップの女として振舞うのが礼儀、男の踊りは本来女が堂々と見るようなものではないのです)のと、1日目同様バッテリーの残り時間が少なくなり、全部撮りきれないとわかってたので気持があまり乗らなかったのとで、ずいぶん後ろの方からカメラを掲げてやっと撮ったのがこれ。
ヤップデイで撮ったテープ全部をデジタル化する作業がやっと終了したので、これから踊り手本人やその親戚・友人のためにDVDをせっせと焼いてあげる作業がつづく。でも、こういう手間とDVD1枚$1.00の出費で、ディープなヤップの踊りの話がいろいろ聞けるんなら、とってもありがたいことだと思う。
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