さあ、わたしの大好きな食べ物編です。上の写真の男の子たちは、コプラ(成熟したココヤシの実)の外殻を剥き(左)、中の固い実を大なたで割っているところ(右)。中の実はオトナなら手の上でスパッと割るのだけど、まだこの子は手が小さいせいか横着してるのか(笑)。
ヤップの親たちは、年端もいかない子供がナイフどころか大なたを振り回そうとも、な~んにも言わないでやらせる。手を切ったらそれで覚えるさ~(笑)。それで、コプラの皮を剥き、実を割って中身を削り、料理に使うココナツ・ミルクを作ったりという作業も、一般的な子供の家事手伝い項目になっている。
ところでヤップデイの会場には、商店の直営や、学校やコミュニティが基金集めのために出展したブースで、いろいろなランチや飲み物を売っているのだけど、わたしはYINEC(Yap Interagency Nutrition Education Council-ヤップ栄養教育委員会)のブースをうろついて試食(もちろん無料)しているうちに、いつもお腹がいっぱいになる。今年のメニューも盛りだくさんだった。
レレス(leeleth)=ココナッツ・キャンディ:
上で男の子たちが削ったコプラに水かココナツ・ジュースを加えて絞ったものが、ココナツ・ミルク。レレスはその絞りかすを天日で干して、ヤシ蜜で煮固めて作る(もちろん絞る前のものを使っても良いけどね)ので、繊維、脂肪、蛋白質、ミネラルなんでもそろったエネルギー食品だ。
沸騰させたヤシ蜜の中に干してほぐしたコプラの絞りかすを徐々に加えてよく混ぜ合わせ、全体に蜜を吸ってポロポロになってきたら火から下ろす。あらかじめ用意しておいた茶色くなったバナナの葉の上に、まだ熱いレレスを適宜乗せて丸めていく。ボール状に包んだら、バナナやパンダナスの繊維で縛って出来上がり。 長期保存がきくので、カヌーなどでの長旅や保存食に利用された。現在ではヤシ蜜を作る人が少ないので、白砂糖で代用されることが多いのは残念だ。
アビッチ(Qabyuch)=Crateva speciosa=ギョボクの仲間:
ヤップ語でアビッチという木(実)にはまだ英語名も和名もないらしいが、東南アジアから太平洋の島々では古くから食用や薬用に使われてきた。同属にギョボクというのがあり、このギョボクは英語ではsacred garlic pear(聖なるニンニクナシ)と呼ばれるというから、同類も霊験あらたかな雰囲気がある。
まだヤップに来て間がない頃、あちこちで見かけるこの実が食べられると知って煮てみたが、とても癖のある味で好きになれなかった。しかし今回おそるおそる食べてみたら
あら不思議!とても美味しかったのだ。どうやら決め手は煮る時間のようだ。軸つきのままで煮始め、実が完全に柔らかくなり軸が自然に取れるまで、数時間(!)も煮続けるという。 完全に煮えた実は、適当な大きさに切って、ココナツ・ミルクで煮つけても良いし、そのまま食べても良い。わたしはそのままでも美味しいと思った。
アビッチはたいへん栄養豊かな食品として見直されているが、輸入食品があふれている現在、この実を常食している人はとても少ない。
リガラッチ(liigareach)スープ=貝(アマオブネ類?)のスープ:
マングローブの根元や海岸の岩などに、しがみつくように群がっている小さな巻貝レガラッチ。この貝を、ニホンでいうとシジミの味噌汁のような感じにスープにしたのが、レガラッチ・スープだ。具はカボチャの花、つる先、葉、香りづけにレモングラス、タマネギ少量、これをココナツ・ミルクで煮るだけ。貝からとっても美味しい出しがでてて、ヤシの葉の芯でつくった楊枝でほじりだした身も意外に大きかった。万一、外から何も入ってこなくなっても、ヤップにいれば何でも食べられるなあ...(笑)。
サカナの直火焼(niig ni moqruuf)とチャムチャム・スープ(chamcham):
何でも直火で料理すると美味しい。ヤシ殻で火を起こして網を置き、新鮮な魚を載せてバナナの葉で上を覆って燻し焼き。焼きあがったサカナはバナナやタロ芋の葉で包んでおくと風味が損なわれない。
チャムチャムとはヤップ語でミックス(まぜこぜ)のこと。なんでも混ぜればいいのだけれど、今回の材料は、青いパパイヤ、マル芋(畑に植えるタロイモで沖縄のタームと一緒)の葉、ココナツ・ミルク。皮をむいて細かく切ったパパイヤを柔らかくなるまで茹で、その鍋に刻んだ芋の葉を加えてさらに15分くらい茹でて、茹で汁と具を別々に分ける。次に具を細かくつき潰し、ココナツ・ミルク、茹で汁を合わせて出来上がり。
ヤップデイ1日目は、この辺でそろそろお腹がいっぱいになってきたけど、もうちょっと(笑)。
マル芋とラック芋のサンドウィッチ:
上の写真は材料のディスプレイ。左からラック芋、マル芋、カンクン、カボチャの葉、オオタニワタリ(chaath)の葉先、レモングラス、バジル、島トウガラシ、味つけに塩、ニンニク、タマネギ適宜。そして右上は主役のオオオカガニ。
右上はカンクンとコプラの削りおろし。以上の材料を少量の油で炒めて適宜味付けする。それをラック芋に挟んだのが左上の写真。
わたしもヤップ人も、実生活ではこんな食べ方はしない。カニと野菜の炒め物と、ラック芋なりマル芋なり好きな主食を好きなだけ皿に盛ってカニ肉のおかずと交互に食べると、なおのこと美味しいものだ。祭り見物のツーリストにも試食しやすいようにとの配慮だろうけど、そのためにサランラップを使って包んでいたら、島はゴミだらけになってしまうよ。
とか文句を言いながらもラック芋サンドもしっかり平らげると、ああお腹が苦しい...(笑)。
まだ見ていない料理は2日目に。
ウム(wum)=石焼料理
1日目にはタイミングが悪くて時間のかかるウム料理を見損ねたので、2日目に踊りや他のアクティビティの合間に見るつもりだったのが、午後1時過ぎにYINECのブースに行くと、なんとほとんどの試食品は空っぽ。前日に反して、2日目は朝から来訪者が多かったという。がっかりするわたしを可愛そうに思ってか、あちこちから残り物がざくざく出てきて、たちまちお腹はいっぱい(笑)、おまけにウムをもう一度やってくれるという。ラッキー!
というわけで、離島のおばちゃんがせっせとすりおろしたライ芋とバナナとココナツ・ミルクをバナナの葉に包む(上の写真左)。それらはヤシの葉できっちりと結ばれた(右)。
ウム料理は時間がかかる。まず土に穴を掘って作った竈に置いた石を焚き火で赤くなるまで焼いて、赤味が取れるまで待つ(上の写真左)。その上に用意した食べ物を並べる(右)。
パンノキの葉や(上写真左)、ココヤシの葉のバスケット(右)など、ありあわせのものでどんどん上を覆う。要するに熱を逃がさないようにして蒸し焼きにするわけ。
ヤップ島には土器があったし、ニホン時代になって鉄製の鍋釜がかなり普及したので、ヤップのウム料理は急速に途絶えたようだ。一方ヤップ州の離島では今でも頻繁に行われているし、20年近く前にコスラエに行ったとき、宿のファミリーからウムで焼いたパンノミをご馳走になったことがある。ウムは大量の食料を一気に料理するには都合が良いし、なんといっても竈焼は美味しい。
それにしても、美味しいものを食べるためには辛抱も大切だ。山のように積み上げた覆い(上写真左)。何度も何度も足を運んで、
まだ?まだよね?と聞きまわり、ついにウム担当のオバチャンに、
あせると美味しいものは食べられないわよとあきれられてしまった(笑)。
そして、わたしの見たい踊りが始まる予定時間の少し前、ついにオバチャンたちが立ち上がった。ウムを開ける瞬間だ!
覆いがどんどん取り除かれ、ついに食物の包みが現れた(上右)。
ここで、包みになぜココヤシの葉の紐が幾重にもかけられていたのか、意味がわかった。熱く焼けた石の上から取り出すときに、うっかり手がすべったりして落とさないように、どこからでも持てるようになっているのだ。どんなに些細なことでも、長く続いた技術にはちゃんと理由と意味があるもんだねえ。
今回のウムで料理されたのは、この2品。右側が上の写真にもあるライ芋、バナナ、ココナツ・ミルクの餅、左上はマール。マールについては、去年の
ヤップデイ料理編をご覧あれ。
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