久しぶりに会った女友達とレストランで夕食を共にし、食事のあともウダウダと四方山(よもやま)話に花を咲かせていたら、ちょっと離れたテーブルにひとりでいたヤップ人のJLさんから、「ビールを奢らせてもらってもいいかな?」と声がかかった。普段は無口な彼が、ひとりでこんなことするのは珍しい。きっとわたしの連れの女友達と話がしたいんだろうと思い、ちょうど話も一区切りついたところだったので、こっちのテーブルに呼んであげた。
30代後半のJLさんは、アメリカの4年制大学を卒業後しばらく働いて、12年ほど前ヤップに帰ってきた。いまはヤップ州で起業する人々をサポートする組織の総支配人をしている。この3月には、JICAのワークショップでひと月も東京に行っていたという。どうやら、そのときの体験談を、いちおうニホン人であるわたしたちに聞いてもらいたいらしい。
今回の旅は、JLさんにとっては3回目のニホン行きだった。彼はヤップ観光局の理事のひとりでもあり、過去2回の日本滞在は、旅行展示会がらみの数日間程度で、それらにはわたしも同行した。
ヤップ人とニホンを旅していると、彼らの旺盛な観察力&ウィットと、そのナビゲーション能力にいつも感心させられる。ラッシュアワーをちょっと過ぎた時間帯の山手線の駅にいたあるヤップ人は、階段から湧き上がる人の群れを見て、「投網(とあみ)を持ってくるんだったなあ」とつぶやいた(人の群れが盛り上がる様子が小魚の群れのそれに似ていた)。初めての土地でも「持って生まれた」としか言いようのない感の働く人が多く、去年のJLさんも、まったく未知の地下鉄の駅から駅を、わたしよりも的確にスタスタ歩いていたっけ。
さて今回、ひとりっきりで1ヵ月も東京に滞在したJLさんは、持ち前の好奇心と探究心で、ワークショップのスケジュールがない日には、すすんで街に出たそうだ。そして、電車の中や店の中などで行きあった人々に声をかけてみた。
JL:
年配のニホン人はね、英語は、ほとんどしゃべれなかったり、しゃべれてもたどたどしかったりするんだけど、みんな一生懸命に僕の言ってることを理解しようとしたり、彼らのことを説明しようとするんだよ。なんだか、言葉は通じなくても心から通じ合えるような感じだったね。
わたし:
へえ~、年配ってどれくらい?
JL:
うーん、自分より10歳くらい上の人たちか、それ以上の世代かな。
それでね、驚いたのは今のニホンの若い人たちだよ。彼らのほとんどは英語が話せる。だけど、こっちが話しかけても会話が進まないんだ。ときには露骨に迷惑そうな顔されたりさ。そして、たまにベラベラ話してくるのがいるかと思うと、英語はちゃんとしているんだけど、何を言いたいのかわからないんだよ。
わたし:
いきなり色の黒いおじさんに話しかけられたら、今のニホンの若い人は「引く」かもしれないね。わたしもよく同じような扱いをうけるよ、ニホンでもヤップでも(笑)。そんな反応する年代はどの辺だと思った?
JL:
20代か、それ以下かな。自分と同世代のニホン人には、まあワークショップの中でもよく出会ったんだけど、みんな英語を問題なくしゃべるわりには心が通じ合うような会話になりにくかった。だから、年配の人とボディ・ランゲージを交えて会話するのが、僕にはいちばん楽しかったし収穫だった。それにしても、ニホンの若い人たち見てると、なんだか将来が心配じゃない?
わたし:
その通り、いまでは世界中の人が、「もうニホンの出る幕はない」と思っているんじゃないかな?これから外資にとことんしゃぶりつくされたら、すぐにポイだわね。ミクロネシア連邦がアメリカの薦めに従って、中華人民共和国の援助をどんどん受け入れているってのは、時代の流れでもあり賢明でもあるわね。
JL:
911を起こした勢力が、次に何をたくらんでいることやら。われわれ小さな島の人間は、いつも大きな力を持ってやってくるものに翻弄される。いや、奴らのおかげで地球はもう駄目かもしれないな。
わたし:
でもね、近い将来、もし地球がCtrl+Alt+Delになってしまったとしたら、わたしたちのように隔絶した小島にいるほうが、生存の可能性は高いと思うよ。いまでも、外からの物資が全く途絶えても、衣食住をちゃんと100%自給自足できるもんね。
わたしの女友達と話をしたくてやってきたであろうJLさんなのに、結局わたしとこんな話ばかりしているうちに夜も更けてきて、まだ飲んでいたい彼をひとりでおいて、さっさと帰ってきたのだった。
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