ブログトップ | ログイン

ミクロネシアの小さな島・ヤップより

suyap.exblog.jp

タカセ貝採取・口開け(解禁)!

天候: 曇ときどき雨
風向: 西北西
風力: 12ノット
気圧: 1009hPa
湿度: 85%
気温: 25.2℃
過去24時間の最高気温: 32.2℃
過去24時間の最低気温: 20.0℃
(7月18日19時53分現在のヤップ気象データ)
(注)「天候」「気温」に関しては、観測時間によってデータに大きく差がでます。一般的に夜は雲が多く気温も低いです。

タカセ貝採取・口開け(解禁)!_a0043520_628358.jpgタカセ貝というのをご存知だろうか?
もっともこれは通称で、標準和名はサラサバテイといってニシキウズ科に属する巻貝だ。学名はTrochus niloticus maximus、英語では学名からきたトロコス、ヤップ語ではヨコヨコといい言い、沖縄以南のアジア・太平洋に分布する。

貝そのものを見たことのない人でも、それらを加工して製品となったものはどこかで見ているはずだ。この貝は高級なボタンの原料として、太平洋の島々では19世紀後半頃から採取が始まった。貝ボタンの需要が減った現代では、このような利用もされているし、イヤリングやネックレスなどのアクセサリー原料にもなっているらしい。

タカセ貝採取・口開け(解禁)!_a0043520_629619.jpgそのタカセ貝、過去の乱獲により資源が減ったのでヤップ州では通常は禁漁となっている。そして州の海洋資源局が毎年資源量の調査を行い(50mに張ったロープの両側10m幅の貝を数えサイズを測る)、資源量が十分という結果が出れば、ヤップ州政府として単独のバイヤーを選定、口開け(解禁)の日・採取量の上限・期間が発表される。通常、海がもっとも安定する7月から8月が口開けに選ばれる。だけどいろいろな事情で、ここ6年間もタカセ貝の採取は行われなかったのだ。

それが今年は「ある」ということで間際に発表があり、昨日の午前正午を持って口開けとなった。もっとも「今年はありそうだ」という噂はすでに広まっており、こっそり採ってどこかの海中に隠している輩もいるから、初日はけっこう沸き立つ。政府ではそれを防ぐために直前に発表するのだが・・・わたしはうっかりニュースを聞き漏らしていて、昨日から、どこの職場にも出勤している男の数が少なく、うちのスタッフもひとり出てこないのがいて、「どうしたんだろう」と思ったら、これ。

タカセ貝採取・口開け(解禁)!_a0043520_6294348.jpg「採っていい」といっても、なんでもかんでも良いのではない。貝の口のある側の長径が3インチ以上・4インチ以下という厳しい規格がある。少しでもサイズ未満やオーバーがあると、買い上げ場で跳ねられる。どうしてこのサイズかというと、小さな貝は成長を待ち、大きい貝には親として子孫を残す役割を期待するため。貝は魚のように逃げないから、人間が採ろうと思ったら、あっという間に資源が枯渇してしまうのだ。

漁法は素潜りだけ、という制限もある。フィン・マスク・スノーケルなどの道具は許されるけど。タカセ貝がもっとも多い水深は10m以浅なので、ローカルにとってはこれは全く問題ない。小さい島のこと、こっそりスクーバ器材を使って潜っていても、すぐにばれてしまうし・・・

タカセ貝採取・口開け(解禁)!_a0043520_6303968.jpgまた、期間と量の制限があって量か期間のどちらかが制限リミットに到達した時点で再び禁漁となる。16年ヤップにいて数回のタカセ貝漁を経験した限りでは、今までは25~30トン程度で1週間というのが普通だった。それが、なんと今年はヤップ島だけで150トン、期間は8月末日まで、と発表になって、実はみんな唖然としている。

この突然の方針の変化について、「海洋資源局は今年も調査なんかしてないぞ」とか「政府がバイヤーからの圧力に負けた」とか「〇〇が賄賂をつかまされたに違いない」とか、色々言われている。まあ何でもアリの政治の日本と同じだね。「今年こんなに採っちゃったら、ヤップにはもうタカセ貝がいなくなっちゃうよ」←これが一番心配だ。

タカセ貝採取・口開け(解禁)!_a0043520_6311240.jpg今年は韓国人のバイヤーがついて、「もっとたくさん買い上げさせてくれないと採算が合わないから」と長いこと交渉をしていたのは事実らしい。今までは一週間のイベントだったのが、今年は初めて1ヶ月半という長丁場となる。パラオでは以前から期間は長かったようだけど。

それで気になる今年の買い上げ価格だけど、1ポンド(454グラム)が$1.25だそうだ。4インチの貝はちょうど1ポンドくらいだから、貝一個拾うとだいたい1ドルという計算だ。それを150トンの上限まで採るとすると、33万~34万個(規格外も採られてしまうから実際はもっと多いだろうが)の貝が採られ、島には$413,000.00(4千800万~5千万近く)の金が落ちることになる。みんながみんな採取するわけじゃないからピンからキリまであるだろうが、たとえば総人口の2割の男が稼いだとして、ひとり数百ドルにはなる。だからコロニアの職場から男が消えるのだ(笑)。早く行けばまだ見つけやすいしね。

タカセ貝採取・口開け(解禁)!_a0043520_632584.jpgもうひとつのルールは、採取のボートには必ずライセンス保持者が乗ってなければならないこと。タカセ貝はリーフの外にいるので、男たちはボートに大勢で乗りあっていくのだが、そのうちのひとりは$25.00を払って今年のタカセ貝採取の許可証を「買って」いなければならない。たいていはボートを持っている人が買って、そこに便乗組が集まるという仕組みになる。それで今日、わたしもあるボートに便乗させてもらった。「スー、カメラを持ってタカセ貝を採るのか?」って冷やかされながらね。

写真の説明
上から順に、海の中のタカセ貝(海藻などがくっくいてまわりと同じ色をしているから水面からは探しにくい)⇒3インチと4インチの刻みをつけたメジャー、これを各自持って潜る⇒いちいちボートに戻ってくるのは効率が悪いので、ブイの下に米袋(メッシュなので水を通すし丈夫で良い)をぶら下げて、リーフを流しながら採っていく⇒さあ、潜降開始(ミクロネシア人はみな比重が重いからフィンを動かさなくてもスーッと潜れる⇒見つけた貝のサイズを確認してっと⇒ゲット!

わたしが彼のまわりをうろうろして写真を撮っていると、いつもは冗談ばかり言って周囲を笑わせている彼の目が真剣そのもので、無言で「っるせーなー」のオーラを発しているのに気がついて、激写オバサンはそそくさと退散。さっすがぁ~海の男!その真剣さを会社の仕事でも出してくれたらなあ(笑)。

タカセ貝採取・口開け(解禁)!_a0043520_723956.jpgそれでわたしもせっせと採取に精を出し、ボートに持ち帰った貝にも、もう一度チェックが入る。買い上げ場でのサイズのチェックはかなり厳しいようで、規格外の貝は「もとの場所に返すこと」とライセンスの契約書には書かれてるのだ。でも、たいていはみんなそこまでしないから、買い上げ場を離れた近場の海に大量の貝が捨ててあるのを、例年、わたしらダイバーは潜ってるときに目撃することになる。ボートの上からゴソッと海に捨てられた貝は、ひっくり返ってて起き上がれないし、だいたい水路の中は彼らの生きる環境にないから、たいてい死んでしまうのだ。

タカセ貝採取・口開け(解禁)!_a0043520_7252126.jpg4人の男と1人の女が3時間のうちに集めた規格サイズの貝がこれ。このほかに大き過ぎてはねられたのが20個くらい出たが、これは協議の結果、後日(内緒で)胃袋に「戻す」(笑)することになった。

タカセ貝採取・口開け(解禁)!_a0043520_7274266.jpgここから先は昨日行って写真を撮っておいた買い上げ場風景だけど、コロニアの港の突先の埋立地にテントが設営されていて、続々と集まる貝の処理をしていた。

タカセ貝採取・口開け(解禁)!_a0043520_7262644.jpg先に「口開け前に採ってるやつがいる」と書いたけど、これは仕方がない面もある。遠くの村から毎日ここまで売りにくるにはボートの燃料も食うし時間もかかる。ある程度採り貯めて売りに来たほうが効率が良い。しかし、「生きた貝でなければならない」という規則もあるから、あまり長い時間はおけないし、生かしておく環境も考えなければならない。以前、泥だらけの貝を口開け直後の初日に売りに来てお縄になった人がいた。貝を早めにとってマングローブの泥地に隠していたのが一目瞭然だったからだ。

タカセ貝採取・口開け(解禁)!_a0043520_7301074.jpg持ち込まれた貝はこの台の上で再びサイズをチェックされ、合格したものだけが目方を測られて買い上げられる。処理の風景は以前に比べてかなりルーズにみえたし、海洋資源局・警察・環境局が合同で行うボートでの巡回パトロールも今年はあまり見かけないが、曲がりなりにもこうしたシステムがまだ機能していれば、そうそう無茶な採り方はできないだろう。

タカセ貝採取・口開け(解禁)!_a0043520_7311125.jpg買われた貝はこの水槽に入れられて、棒でつっつかれて洗われながら、水槽のまわりに陣取った臨時雇いの作業員に、ひとつひとつ中身を取り出されていく。バイヤーの韓国人のオッちゃんに貝の中身を売ってくれないかと聞くと、ダメと言われた。いつもなら中身はローカル消費にまわされるのだけど、今年はこれも加工用に輸出するのだろうか。

タカセ貝採取・口開け(解禁)!_a0043520_7324589.jpgそして貝殻だけになったのが、これ。
きれいに洗浄されて乾かされ、やがて世界の市場に売られていくのだ。もしかしたら、貴方のシャツのボタンやアクセサリーにも、ヤップ産のタカセ貝が使われているかもしれない。

今日の収穫の売り現場までは同行しなかったのだけど、あれだけチェックしてても数個は規格外ではねられたそうで、それでも300ドル以上にはなったらしい。わたしも50個以上は集めたのだけど、これはボートに便乗させてくれたお礼として、「わたしの稼ぎはいらないよ、だけど規格外の貝は少し分けてちょうだいね。わたしの胃袋にも貝を返すから」ってことにしたのだった。

という訳で、近日中にタカセ貝料理をご紹介できるでしょう。


よろしかったら人気ブログランキング地域情報 & にほんブログ村海外生活ブログにクリックをお願いします。




◆ヤップの旅の情報はこちらでどうぞ
http://www.naturesway.fm/index2.html
by suyap | 2006-07-18 22:48 | ヤップの自然・海
<< フチドリカワハギの驚き? 自家用機でヤップ旅行! >>