ブログトップ | ログイン

ミクロネシアの小さな島・ヤップより

suyap.exblog.jp

週刊文春4月13日号のヤップ記事を斬る-その弐

天候: 晴
風向: 東北東
風力: 11ノット
気圧: 1009hPa
湿度: 78%
気温: 27.5℃
過去24時間の最高気温: 31.1℃
過去24時間の最低気温: 23.9℃
(4月14日午後8時50分現在のヤップ気象データ)

一昨日の朝、慌しい日本の旅を終えてヤップに帰ってきた。マリンダイビングフェアの会場に来ていただいた方々にはご心配かけたけど、東京での一夜を過ごした次の日から、わたしは声をほとんど失った。どうも少し風邪気味だったところにホテルの部屋のエアコン(暖房)が災いしたらしい。それでも会場でしゃべり続けるから、毎日の終わりには喉に痛みを感じるまでになっていた。それが日本を離れて湿気の多いミクロネシア圏に入ると一気に快方に向かい、今はほとんど元の美声(?!)を取り戻している。

ところで、帰ってすぐに取りかかろうと思っていた文春の件だけど、帰島当日はさすがにバタンキュー、そして昨日は何やかやと残務処理に追われ、結局今日やっと動きまわることができた。それでも、ちょっと聞きまわっただけで色々なことがわかってきた。

まずヤップ州HPO(歴史保護局)に約束していた、問題の文春とその記事の翻訳提出。興味のある方は、この記事の末尾に全文(英文)をコピペしておくので読んでみてほしい。それにしてもこの翻訳には苦労した。意味のないコトバの羅列や体言止めが多く、主語と述語をはっきりさせる論理的な英語にするには難しい。本文に比べて訳のほうが格調高くなりすぎた気もしたので、コメントにその旨を断っておいた。「教養のある人はこのような文は好みません」とね(笑)。

それから、お墓のおじいちゃんの家族に連絡をとった。そしたら、「ああ、今年の1月か2月に日本人の○○に連れられて来た人たちかしら?うちのPも協力したわよ」っていうことで、Pさんにも話を聞いた。ヤップの正装(フンドシ)姿で写真に写っているのはTさんだけど、彼が掲げている貝貨はPさんのものだそうだ。もちろんお墓の写真を載せる許可など取ってはいなかったので、写真を見て、おじいちゃんの奥さんは憮然となった。

彼らにも訳文つきで文春を一冊贈呈し写真と文章の説明をしたら、真っ青にしか見えない1-2頁をみて「何だ、これ?」 そして、みんなの注目を集めたのが4頁下の写真。「なんでよりによって、こんな貧弱な写真を出したのだろう?」ということに議論が集中した。そしてPさんが、「これはルムングのガノン村の石ではないか?」と言い出した。

週刊文春4月13日号のヤップ記事を斬る-その弐_a0043520_0153682.jpgルムング島はヤップの北の端にある島で、橋がかかってないからボートがないと渡れない。それにまだ田舎気質を残していて、よその人が村に入るのにも昔ながらのシステムを踏襲するので、商売にエゲツない会社はForbidden Island(禁じられた島)なんて宣伝して、「手前どもだけが(お客様を)ご案内できるんでござんすよ」って売り込んでいるけど、実際は、ちゃんと手順を踏んでルムングの人にガイドを頼めば、どのツアー会社でもご案内できるのだ。ネイチャーズウエイの場合は、チョメもフラビッティルもルムングの人だから、まーったく問題なく、いつでもご案内できるという訳。

週刊文春4月13日号のヤップ記事を斬る-その弐_a0043520_0163030.jpgそれで、Pさんの発言で文春の写真をよく見てみると、なるほど、ガノン村にも半分に割れた石貨があったのを思い出した。左上の写真はその割れた石貨の手前の方を写したものだけど、こっちのほうが雰囲気あるでしょう?でも、わたしにはまだ確証はない。ガノン村に行っても、あまり見栄えのしない割れた石のほうは写真を撮ってないから、比べようがない。

週刊文春4月13日号のヤップ記事を斬る-その弐_a0043520_0172374.jpgちなみに、写真右上、それから左、右下に続く2枚は、すべてガノン村のもの。しっとりとした集会場もあるし、石畳の道もある。この村は、ウヌベイと呼ばれる建物の土台&テラスや石畳に敷く石を産するので、とにかく1枚の石がみな大きい。普通はみなこのどっしり感に打たれて、割れた石のある隅っこなんかに興味を示す人はいないのだけど。

週刊文春4月13日号のヤップ記事を斬る-その弐_a0043520_018669.jpgまたPさんは言った。「あの人たちは、たくさんのカメラ器材を持っていて、あちこちでいっぱい写真を撮っていた。それをヤップの宣伝に使うと言っていた」

ライター氏のことはわからないが、カメラマンの濱川聡一郎氏は文春専属ではなさそうなので、そうなると、ヤップの取材で撮り貯めた写真を、あちこちに売りさばく気だろうか?そうとしたら、文春には敢えて取って置きの写真は使わせないっていうのも、うなづける。ともかく文春編集部が納得する程度のものでOKなのだ。

その壱でも書いたけど、濱川氏もライターの林氏も、ヤップ州のResearcher's Permitを取得していない。これは旅サラダのときにも触れたことだが、ヤップ州にはResearcher's Lawというのがあって、州内でいかなる「採集」行為、それが生物であっても、民俗・民族関係であっても、ともかくヤップ州内の自然・文化遺産を「採る」行為をする外国人は、州法に従って届け出、納税、許可取得の義務があるのだ。生物化学者、写真家、文章家、民族学者、テレビ取材、報道関係者、みんな該当する。

1997年にこの法律が成立したとき、わたしも一時「言論弾圧じゃないか」といきり立ったが、今は違う。法的に不備の多いのも確かだが、このような法律をよりどころにして、ヤップのような風前の灯火状態のマイノリティの文化と自然環境は守られなければならないのだ。

日本のように人口の多い民族の文化や暮らしは、外国人が少々嘘や誇張を書いたところでビクともしないだろう。たとえば、アメリカのニューズウィーク誌に「日本人はまだ木と紙の家に住んで、ブシドーの精神を生きている」とか、これはほんとうにあった話だが、オーストラリアの新聞に「日本人は恥を重んじるので、この溺れ死んだ青年のように、死が迫っても恥じて『助けて』と言えないのだ」なんて書かれても、笑い話で済んでしまう。

ところが、ヤップのように数千人、島によっては数百人という小さな人口規模の民族の文化や暮らしでは、外国人の勝手な表現物(映像、画像、書物)が、いつのまにか既成事実として後世に残っていき、ひいてはその文化の本来の継承者へも影響を及ぼす>>外からの圧力が文化を変えていくという危険性を持っているからだ。

言い方を変えると、日本のように昔から文字というハードツールを使って自分たちで自身の文化や暮らしを表現していた民族では、外から何か言われたり書かれたりしても、少々のことでは本体に決定的な影響は及ばない。しかし、ヤップのように、文字というハードツールを使わないでソフトツール(口とマインドによる伝承)だけで繋いできた文化というのもは、外からのハードの襲来には、ほんとうに脆弱なのだ。

ヤップといえども既にソフトツールだけでの伝承は限界に来ている。はっきり言って既に途絶えているとも思う。しかし、今ならまだ間に合うのではないか、マインドがまだ生きているうちに、自らの手でソフトをハードに置き換える作業をしなければいけない。そういう思いを持ってこのResearcher's Lawを読むと、とっても強い味方のように思えてくるのだ。もっとも、ソフトツールで成り立っていた文化がハードツールに置き換わった段階で、ソフトツール文化の真髄は失われている、とも言えるけど。でも、その推移を自身のパワー(あるいは自身の意識的な選択)で行うか、外圧により変化を遂げるかは、大きな違いだと思う。どうだろうか?

Researcher's Permitの窓口になっているヤップ州HPOでも、この法律の運用は非常にフレキシブルに行っている。ヤップのことを深く知らない外国人には、興味本位やいい加減な知識でヤップのことを表現してもらいたくないので、発表前に必ず地元の評価を受けること、ヤップのことを扱って利益のあがる場合にはヤップ州にも利益の一部を還元すること、というのが柱だが、学生や研究者、とくにヤップ州と協力して研究活動をする人々には、州との共同研究という形で便宜をはかってもらえることもある。

ということで、何かというと「ヤップの宣伝をする」だの「観光の振興を手伝う」だのと触れこんで、自分らの利益のために好き勝手な画を撮って好き勝手に書いたりしゃべったりするテレビ屋さん、写真屋さん、物書きさんが多いが、こういう手合いからこそ、ヤップ州はガッポリ税金を取るべきなのだ。事実と反する「宣伝」でヤップの名が売れても、結局、困るのは地元なのだから。

いろいろな文章や作品に接するとき、最近わたしは、対象にたいする作者の「愛」が作品中にどのくらい見えるか感じられるかという視点で見るようになった。この「愛」を見つけるというアプローチは、ある人に教わったのだが、とっても簡単で間違いのない方法だと思う。「愛」というのは定義の難しいコトバだけど、要するにcommitment責任・献身・執着ね。loveとかhateってのはそのひとつ下の感情だが、これらも無いよりはマシ。作者にこれらの姿勢が感じられる作品は、安心して味わえるということで、それらが感じられないものは、作者の無責任、不献身、どうでも良さが現れていて、とても信用のできるものではないということ。この文春の記事を含めて、今の日本にはそういう表現物が満ち溢れていて、ほんとうに息がつまりそうだ。でも、わたしはあきらめない。質の高い読者が質の高い作品を産むのだから。

さあ、みんなで文春編集部に抗議しよう!
i-weekly@bunshun.co.jp


ーーーーーヤップ州歴史保護局に提出した訳文とコメントーーーーー
A Translation of
Weekly Bunshun, April 13, 2006 (published on April 6, 2006)

Photographer: HAMADA, Soichiro
Text: HAYASHI, Fumihiro
Publisher: Bungei Shunju Co. Ltd.
Contact: i-weekly@bunshun.co.jp

1) Captions on the Photos
(Page 1)
What fulfills the Paradise?
The word “paradise” suits Yap very much. The environment of the island is of course beautiful. Blue waters, fringing reefs, etc. But the most important elements which make the island paradise are its easy going atmospheres and the people who still want to keep their own traditions.

(Page 2)
Yap at dawn. A triangle shaped local house in blue background surrounding the island.

(Page 3)
Photo above
The objects which the man is holding in his hands are money made from whale bones and which on his neck is necklace money made from shells.

Photo below
Beautiful clear water with varieties of blue gradation.

(Page 4)
Photo above
A grave in a forest. It looked like a flower garden with white, violet and yellow flowers.

Photo below
Bank. They use huge stones as their currency. The stone doesn’t move but the ownership changes.

2) Text
You can find a paradise named Yap with almost-being-extinguished and cartoon-like tolerant atmospheres, near the equator only 5 hours flight from Japan. The island is in the Federated States of Micronesia, is almost the same size as Isu Oshima and the people still refuse the capitalization and the westernization as much as they can.

“You harvest fruits and catch fish only enough for today. You can get them again when tomorrow comes.” They all live from hand to mouth, self-sufficiently. They still use huge stone money like in the Stone Age and keep the traditional wooden canoe sailing across thousands of miles of water only by star navigation.

Of course there are no conveniences such as cell phones, internet access or even TV. Only things you can see here are beautiful waters, coconut trees, lots of fruits and laughs of the lighthearted and a little bit lazy islanders. The Yapese is happy to live in this way. They respect and live with the natural environment. I think their lifestyle is one of the most beautiful and ideal one.

Because of the Japanese administration before the WWII, some Japanese words, such as “undokai” and “bento” are still commonly used in their daily life and there are some elders still speak fluent Japanese. You can experience many discoveries, surprises and outbursts of laughter of the islanders by just visit and look at this unique and miracle paradise of Yap, which is impossible to find in your life in Japan. The island is full of healing that most of the Japanese needed now.


Comments to HPO

1) There is a lot of intended misinformation to make Yap look like a “primitive paradise”, which eventually all visitors can find false, but most of the readers who have no chance to come to Yap will believe what they read about Yap.

2) The words Bento or Undokai are common in Palau but not in Yap. This and many other phrases indicate that the writer referred to and used phrases from many other already-existing documents in Japan about Micronesia to make up his story of Yap but not based on what he actually had seen in Yap.

3) My translation may sound nicer than the actual text that is full of nonsense rhetoric and which real-highbrow readers would dislike. I translated in this way so that the people who cannot read the Japanese language would understand what exactly the writer meant. It was hard work anyway because he didn’t mean anything in many parts.

4) The photographs used were quite low quality and not a good introduction of Yap. They could have used better photos and visit more places to show Yap.

5) The Weekly Bunshun is one of the five popular weekly magazines and its targeted readers are in a wide range from highbrow to lowbrow such as Newsweek Magazine in the US. It can be obtained at any bookstores, bookstands in town or at train stations. The possibility of the negative influence, because of its intended misinformation, to the general public in Japan is quite high.

6) I have written in my Japanese weblog about this to inform the Japanese people not to believe what they had read in the magazine. Many were concerned and encouraged me to continue to do so.

7) If your office, as HPO or Yap State Government, could officially announce comments, ask the editor to correct the facts and have the publisher list an apology in its future issue, it will be helpful to protect the future from incidences of same kind.

8) A strong enforcement of the Researcher’s Law and an announcement of the law to all the tour operators, hotel managements and general public in the state are suggested.


★ヤップの旅の情報はこちらでどうぞ
ネイチャーズウエイ
http://www.naturesway.fm/index2.html
★よかったらクリックしてね
人気blogランキング
by suyap | 2006-04-14 20:32 | ヤップと日本のメディア
<< 小さな仲間 週刊文春4月13日号のヤップ記... >>