天候: 曇
風向: 東北東
風力: 8ノット
気圧: 1011hPa
湿度: 79%
気温: 27.5℃
過去24時間の最高気温: 31.7℃
過去24時間の最低気温: 22.8℃
(3月31日午後9時50分現在のヤップ気象データ)
今日の夕方6時、ヤップ州の離島を結ぶ連絡船マイクロ・スピリットがロング・フィールド・トリップに出航した。ここ2週間ほど我が家に泊まっていた友人も乗っていくので、わたしも桟橋に見送りに行ってきた。写真は出航1時間ほど前の、荷物や人の積み込みで慌しい桟橋の風景。
ヤップ州の1200キロにわたって東西に延びる広大な海域には138の島があり、そのうちの22島に人が住んでいる。わたしが住んでいるヤップ島といわれている場所には4つの島があるので、それ以外の島々(日本語で便宜上「離島」という)で人が住んでいるのは18島だ。下の地図はヤップ観光局のオフィシャル・ガイドブックから借用したもの。島の大きさはイメージ化してあるので実際とは違うし、環礁内の小さな島々は省略してあるが、各島の位置関係は察していただけると思う。
これらの島々を、州政府の連絡船マイクロ・スピリットが毎月~2ヶ月に1回程度のわりで廻っている。航海の日程は、乗客、積荷、行事、船の状態、海況など、様々な都合でコロコロと変わる。今回の出航日も最初は3月16日に予定されていたが、フタを開けてみると2週間遅れ。まあこれくらいのペースで事がまわっているのだから、それはそれで良い。
コースは近場の島だけ(ユリシー・ファイスなど)をまわるショート・フィールド・トリップと、東の果ての島まで行くロングフィールドトリップがあるが、今日のはロング・フィールド・トリップの出航だ。上記のとおり予定は未定なので色々な要素で変更になる可能性大だけど、一応の予定を書くと次のとおり:
3月31日 午後6時 ヤップ出航
4月01日 午前5時 ユリシー環礁フララップ到着、環礁内の島々をまわる
4月02日 潮の時間を見計らってファイス島着
4月03日 ソロール環礁
4月04日 ユーリピック環礁
4月05日 ウォレアイ環礁、環礁内の島々をまわる
4月06日 イファルク環礁
4月07日 フチャイラップ環礁
4月08日 エラト環礁>ラモトレック環礁
4月09日 サタワル島、数時間で折り返し出航
4月10日 ラモトレック環礁>エラト環礁
4月11日 イファルク環礁
4月12日 ウォレアイ環礁、環礁内の島々をまわる
4月13日 ユーリピック環礁
4月14日 ソロール環礁>潮の時間を見計らってファイス島
4月15日 ユリシー環礁着、環礁内の島々をまわり夕方ヤップに向け出航
4月16日 ヤップ帰着
わたしの友人はオーストリアの文化人類学者で、20年以上にわたってヤップの離島をフィールドに滞在と研究を繰り返しているので、この手の旅は手馴れたもので滞在先もしっかり手配してある。今回はウォレアイ滞在の予定で、この船で渡って同じ航海で帰ってくるとウォレアイの滞在日程は7日弱となるので、彼女は次の航海で帰ってくるつもりでいる。次のロング・フィールド・トリップの予定は5月末ヤップ出航予定だから、帰って来られるのは6月中旬、彼女のヤップからヨーロッパに帰る飛行機のチケットの日程に間に合うかどうかってことで、間に合わない場合は代理人が変更する手配までしている。上記の地図でオレンジのラインのある島には軽飛行機便もあるのだけど、ウォレアイ便は不定期もいいとこで、彼女が望むタイミングで来るかどうかもわからない。ヤップ州の離島ってところは、これくらい悠長なタイム・フレームで行動しなければならないという見本。
そんな訳で一般ツーリストが入ることはほとんどない島々なのだけれど、それ以外にもツーリストが物見遊山で行く場所でない理由がある。それは、小さな島というのはひとつの閉ざされた空間または島全体がひとつの家族みたいなもので、その中にふらっと入りこんだヨソモノは徹底的に浮きまくるということ。島の人にとっては、どこの道も庭も海もぜんぶ自分ちのテーブルや椅子や冷蔵庫のようなもので、島の住民にとっては共有物なのだけど、ヨソモノのものではない。大きな国に住む人や今のほとんどの日本人には、公園だの広場だのビーチだのという「公」の場所は誰でも自由に使って良いという感覚があるけど、こういう小さな閉ざされた空間に住む人たちの意識には、「公」という定義は存在しない。「みんなのもの」はあっても、その「みんな」とは、自分たち家族=閉ざされた空間を共有して生きる仲間のことであって、ヨソモノは含まれない。そこんところを徹底して理解してないと、短期間なら自分は良い思いをするかもしれないが、とんでもない「後を濁して」飛ぶ鳥になったり、オジャマ虫だったりするのだ。人口や面積が大きく人の出入りも多くなったヤップ島でさえ、まだ根本のところでは同じようなものだと思う。
さて、そんな離島を結ぶ連絡船のマイクロ・スピリットは、日本製の船である。1970年代の建造で、ミクロネシアに7隻が無償供与された。実はそれには裏話があって、本四連絡架橋工事と大きくかかわっている。今では中国地方と四国は何本もの橋で繋がっているけど、その工事が打ち上げられたとき、瀬戸内海の造船業界は戦慄した。本州と四国が橋で繋がってしまうと、連絡船建造のオーダーが激減するのではないかと。それをなだめるために、政府は独立国として再出発しようとしているミクロネシアの国々に連絡船を寄付することにして、国費で建造をオーダーした。贈られた7隻のうち現在まで稼動しているのはこのマイクロ・スピリットだけで、これはメンテナンスと航海におけるヤップ州のプライドと自信を物語る。
なにはともあれ、船は定刻午後6時ジャストに離岸した。今回の航海は意外に乗客が少なくて、150人定員のところ100人未満とか。数年前までは400人くらい詰め込んでいたと思うが、最近ではアメリカ沿岸警備隊の目が光っていて、あまりオーバーはできないらしい。それでもキャビン(船室)は極わずかで、ほとんどの乗客はデッキにゴザを引いて寝泊りする。昨今はどうか知らないが、わたしが使っていたころ(少なくとも17年前まで)の東海汽船伊豆七島航路では、夏休みシーズンになるとデッキにゴザを引いて寝る乗客が足の踏み場もないくらいいたが、ここではそれ以上の混雑ぶりだ。また伊豆七島航路は八丈島まで行っても一昼夜弱だけど、ここの人たちは最長片道一週間以上をここで寝泊りする。最近はギャレー(食堂)も廃止になったから、食料はすべて持参、灯油コンロを持ち込んでデッキで自炊する人もいる。
おっとりと桟橋を離れて向きを変えたマイクロ・スピリット。貿易風もやや納まってきたので、とりあえずは順調な旅路となるだろう。Bon Voyage!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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