きょうも曇り時々雨、すっきりしないお天気が続いている。あんまり暑い日が続くより、こんな日和のほうが過ごしやすくていいのだけど、南国の青い空と明るい日差しを求めてきているツーリストには、お気の毒なことだ。スミマセン、とわたしが謝ってもどうしようもないけど。
そこで、カッと晴れないヤップの空に代わって、せめて口のなかでもカッとしてもらおうかと(笑)、トウガラシを取り上げることにした。写真は、うちの側でいま実をつけている大家さんのトウガラシ。大家さんの土地に生えているものは、フルーツも野菜もハーブもみな大家さんのものだけど、店子も必要なときには頂戴していいことになっている。こうして家のまわりになんでもあるっていうのは便利このうえない。でもこういうのって、ちょっと前の日本でも、フツーだったんだよなあ。小さい頃、小さな社宅のこれまた猫の額ほどの小さな庭に、ミョウガだの、フキだの、ニラだの、シソだの、ありとあらゆるものを祖母は植えていた。ヤップの人はみんな大地主だから、その規模が大きいだけだ。バナナもパパイヤもタロイモもカボチャも、何でもありだ。自分の食べるものは自分で作る&取ってくる、これが生きる基本だね。
さてトウガラシの話に戻ると、これも原産地は南米、ヨーロッパには15世紀の末にコロンブスによってもたらされ、16世紀には日本やアジア地域にもポルトガルやスペインの船とともに伝播した、というのが定説らしい。が、西洋人の進出が始まるよりずっと前に、南米から直接ポリネシアの島々に渡ったものが太平洋地域に広まったのかも、という説もあるらしい。ヤップのトウガラシはどっちのルートで来たか?仮にポリネシア説があたっていても、きっと既にあっちゃこっちゃでごちゃ混ぜになっているのだろう。
トウガラシのことを考えるとき、わたしがいつも不思議に思うのは、南北朝鮮、インド、タイなど、極端に寒い地域と暑い地域で、トウガラシの激辛レシピが発達したことだ。更におもしろいのは、朝鮮半島ではトウガラシは日本経由で渡ってきたと思われていて、ポルトガル人>日本>朝鮮というルートはほぼ当たりらしいのに、中継地の日本では何故かあまり定着しなかったことだ。最近でこそ、激辛ブームでキムチやカレーの辛いのが好まれているけど、太平洋戦争が終わるまでは、せいぜい七味唐辛子など、他の香辛料との抱き合わせという形でしか普及しなかったのだ。
ここヤップを含めてミクロネシアでも、トウガラシ辛さはポピュラーな味である。写真のものは「あまり辛くないやつね」と、地元ではちょっとランクが下にみなされている。ほんとうに辛いのは、マッチの頭くらいの超小粒なやつで、これを一粒でもラーメンの中に放り込んだら、辛いのにあまり強くないわたしなぞ、スープが飲めなくなってしまうくらい強烈だ。でも、そういうのを平気でバリバリ食べられる人もいるから、ほんとうに人間の感覚というのは、不思議なものだ。
辛いのが好きなヤップ人は、たいてい自前のトウガラシをバスケットに入れて持ち歩いていて、どこでご飯を食べることになっても、また酒の肴を供されても、すぐに自分の好きな「ソース」を作ってしまう。ヤップでもサシミといえば日本の刺身と同じだが、ワサビ+醤油よりも、トウガラシ+醤油+ローカルレモン汁のセットのほうが人気がある。だからレストランで刺身を頼むと、必ずこの3点セット、もしくはトウガラシのかわりにタバスコが、ワサビと一緒に出てくる。
ワサビもかなりポピュラーで、どんな店にもハウスのチューブ入り練りワサビが並んでいるし、それなりに売れてそうなのだけど、やはり辛さの一番人気はトウガラシだ。その違いを、あるヤップ人は、「ワサビは食べた直後はトウガラシより辛くてすごいけど、それが長続きしない。トウガラシは直後はワサビほど強烈じゃないけど、辛さが長続きするから、トウガラシのほうが好きだ」と表現していた。う~ん、わたしなんかワサビを食べるときにも、できるだけ辛さを感じないように刺身の上にちょっと乗せて身でくるむようにして食べるんだけどね。ワサビでツンときっちゃったら、食べたものの味がわからないじゃない?
たいていの家で、庭先に色々な種類のトウガラシを植えている。それを必要に応じて取ってきてすぐ使ったり、大量に取れたときには、瓶につめて酢漬けにする。このトウガラシ酢は、色々な料理の調味料として、とっても重宝するアイテムだ。今では作る人が減ってなかなか手に入らないヤシ酒は、作って2日もすると酢になってしまうので、この残ったヤシ酒にトウガラシを漬け込んでおいたのが、色々な風味も加わって一番おいしいと思う。トウガラシにも酢にも防腐作用があるので、これは台所の隅に何年でも置いておいて大丈夫、とか書きながら、いま、うちにトウガラシ酢が無いのに気がついた。今度またヤシ酒を手に入れて作ろうかな、、、
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