久しぶりに本格的に晴れ上がった一日となった。北東の貿易風も順調にもどってきたので、これでしばらくは好天が期待できそうだ。
さて本日の話題は、お待ちかね(?)「
旅サラダの正しい食べ方」、去年の11月26日にレポートした
「朝だ!生です旅サラダ」の作り方・ヤップ編の続編だ。あれから、12月10日にヤップ編が放映されたのだけれど、まさかそんなに早く番組アップするとは思っていなかったワタシは、予定していた日本の友人に録画を頼みそびれてしまった。それでもヤップ在住日本人のご家族がたまたま録画してくださったものを入手できたので、昨日やっと見る機会を得た。
でもこの番組に登場しているヤップの人たちのところには、観光局にさえも、番組制作側からのコピーがいまだに届いていない。放映後にメイルで催促をした人には「まだ放映が終わらないから、もう少し待ってくれ」という返事が入ったきりだという。利用するだけしておいて用が済んだらナシのつぶて。日本のテレビ屋さんの取材は、いつもこういうのが多い。だから私はいま希望者にコピーを作ってあげるので忙しい。やっぱり自分がテレビに出ているところ、みんな見たいもんね&見せたいもんね(笑)。コピーのあとは内容の説明文を早急に作らなきゃ。だって、いちいち各人のところに出張して通訳やってられないもん。
で、お待ちかねの番組観賞のあとは、やはり、
爆笑と
憤慨と
落胆の坩堝なのであった。
番組では最後のほうになっていたが、まずは気になるマンタのシーン。
なんで、こうなるのお~~~~~?
私が予告したとおり、マンタの数が増えていた(笑)。「
作り方」でも書いたように、あの日、私たち(私と弊社のお客さん)と取材チーム水中班+彼らのガイドが見たマンタは、確かに一匹だけだった。私とお客さんのチームが先に潜って後から上がったのだし、画面に出てくるクリーニングステーションは、両方のチームが一緒にいた場所に間違いはない。
この写真ではよく見えないけれど、録画した画面ではクリアにうちのお客さんも写っている!(この影を消したかっただろうね、制作側は)
どうして取材チームにだけ、私たちには見えなかった+2匹のマンタが、見えてしまったのだろうか???
それで、マンタが3匹でてくるシーンを何度も何度も巻き戻してみた。すると、映っているサンゴの形から、3匹マンタを撮ったカメラの位置が想定でき、それは実際にカメラマンが居た位置からでは絶対に撮れない構図だということが見えてきた。このシーンは、時間にしてほんの5秒くらいなのだけど、完璧に借り物か、譲っても手前のマンタだけがホンモノ(カメラマンが実際に撮ったもの)で、後ろの2匹はコピーだろう。
スタジオでも、「この日でたマンタは3枚」と何度も強調していたけれど、
捏造してまでマンタの数を増やすことに、いったい何の意味があるのだろう?どうして「残念ながら今回見たのは1匹だけだったけど、もっとたくさん来ることもあるんですって」って、素直に言えないのだろうか?それにしても、マンタは座布団じゃなくて、いちおうサカナなんだから、「枚」って数えるのは違うんじゃないの?カツオが1枚、サンマが2枚?
この手の番組を録画して長期保存してる人は稀だと思うけど、いちおう他にもいっぱいある
マチガイや
ヒジョウシキや
シツレイな内容を下に挙げておく。番組を見た人で少しでもそのシーンを思い出せる人は、ここで内容をもういちど反芻してみて欲しい。そうすることで、このサラダの味わいは、コンビニで売ってる危ないサラダから、心を込めて作った母さんのサラダくらいに、グ~ンと上昇すること請け合いだ。
上記のとおり、マンタを最初にもってきちゃったけど、以下は番組の進行どおりに記します。
1)ナレーション「見知らぬ訪問者を優しくもてなすヤップの人は...」
これは、あるヤップの家の野外キッチンにレポーターがいきなり入って行って、ごはんを食べているおばちゃんに話しかけるシーンで言ってるのだけど、「見知らぬ」もなにも、すべて取材チームのリクエストでお膳立てしたうえでの撮影なんだから、これを読んでる皆さんは、たとえヤップに来ることがあっても、いきなりよそのおうちにスタスタ上がり込む、なんていう勘違いな行動は、なさらないですよね!?と、いちおう言っておきたい。
2)おじさんが3人でビンロウジュを噛む
このシーンで、当人たちには申し訳ないけど、ワタシは腹を抱えて笑ってしまった。彼らは全員ヤップ観光局のスタッフである。それも、ひとりは観光局長代理(局長ポストは当時空席)。そういうエライ立場であるにもかかわらず、この涙ぐましいまでの演技協力!ヤップの男の気持ちがちょっとだけわかるワタシとしては、「お気の毒に」とは思いながらも、ついつい笑い転げてしてしまう。
ところでここでの問題は、
a) レポーターが、ひとりのおじさんのバスケットに断りもなくズケズケ触っていること。
すべて撮影側のリクエストで事前に筋書きがあってのことだろうけど、いくらスタジオやナレーションで「ヤップの人たちは自分たちのしきたりや文化を大事にします」と口先で言ってても、こういうところでボロが出る。ヤップの男にとってバスケットは彼自身の分身なのだから、ほんとうに親しい人(つまり奥さんとかね)以外は、めったなことでは無断で触ったりできないのだ。バスケットを画にしたいのはわかるけど、それだったら、ちゃんと断っているシーンを入れ、その理由をちゃんと視聴者に説明しないとね。こういう不注意な番組づくりが、勘違いした旅行者を生産し、それが元で現地が荒れてくるということを、番組制作側はまったく考えてもいないのだろう。
b) レポーターが不注意で地面に落としたビンロウジュの実を、平気でおじさんのビンロウジュ袋に戻したこと。
もしかしたらおじさんは、撮影の後で袋のビンロウジュをぜんぶ捨てちゃったかもしれない。噛んだとしても気持ちのいいものではなかっただろう。だって地面に落とした他人の食べ物を、ふつう持ち主に断りもなく拾って袋に戻すだろうか?ヤップ人なら、いや相手に少しでも気を使う人ならば、決してできない行動だろう。そういうシーンにNGを出さなかった製作側の程度が、こういうところでも知れるというものだ。
3)ナレーション「ストーンマネーと呼ばれる石のお金」
ここでも大爆笑。だってこれって「シュリンプと呼ばれる海老」「ドッグと呼ばれる犬」
「マネーと呼ばれるお金」って言ってるのと同じじゃん。ストーンマネーは英語、石のお金は日本語です。ヤップでは石貨は地域によって「ライ」とか「フェ」と呼ばれます。似たようなナレーションはまだあったよ。「メンズハウスと呼ばれる男の集会場」とかね。どうしてヤップの名前をちゃんと調べて原稿を書かないのだろう。たとえば「ファルーと呼ばれる男の集会場」というようにね。これらの主要なヤップの固有名詞は、すべて
「ヤップ観光局2005-2006オフィシャルガイドブック(日本語)」に出ています(執筆者はワタクシですけど)。
4)石貨の伝説を語るナレーション
とっても怪しげな話デス。「満月の夜に作ったから石貨は丸い」だなんて、長い話を思いっきりはしょって継ぎあわせたか、思いっきりの勘違いか(笑)。こういう確証のない話は安易に扱わない、というのが、良識のある制作者の心得というもの。へたすると他人の文化や歴史に、勝手に新たなストーリーを加える(いじる)非を犯す危険があるからだ。
5)カヌーの帆をあげるときの変な太鼓の音
カヌーの帆をあげるのは、かなりの集中力を要求される共同作業だ。それなのに、男の掛け声以上の音量で(実際にありもしない)太鼓の効果音を入れていた。これは後で触れるポンペイ編でも出てくるけど、「生サラダ」といいながら青菜を茹でてくたくたにして出すような行為だ。どうして「生」の躍動感をそのまま表現しようとしないのだろう?この辺にも取材対象をまったくリスペクトしない制作側の態度が現れている。
7)レポーターの質問「これでストーンマネーを運んできたの?」
帆をあげたシーンの後で、カヌーのクルーのひとりにレポーターが日本語で聞いているのだけれど、返ってきたクルーの答えは航海術の説明だ。質問と答えがまったくかみ合ってない(笑)。でもワタシが問題にしているのはそういうことではなくて、このカヌーとクルーは実はヤップ島出身ではないのだ。ヤップ州には東西1000キロにわたってたくさんの島が点在し、州内には大雑把にいって4つ以上の異なる言語があり、文化もすっごく違う。それで、石貨をカヌーで運んできたのはヤップ島の人たちの祖先であって、このシーンに登場する島の人たちとは関係ないのだ。またもっと細かいことをいうと、カヌーのシェイプも各々微妙に違ってて、それぞれの出自にはもちろんみんなプライドを持っている。取材対象をちゃんとリスペクトしていたら、たとえ日本語だから通じないとわかっていても、こんな質問はできなかったはずだ。それとも単なる勉強不足?
8)ナレーション「(このホテルは)メンズハウスの作り方でできています」
パスウエイズホテルのコテージのことを言っているのだけど、男の集会場なんかをホテルにしちゃったら女のお客さんは泊まれないじゃん。ほんとうは、ヤップの伝統的な家のつくりを模した構造と外観になっているのだ。もともと男の集会場は若い男たちが寝泊りする「家」でもあったから、それは当時ふつうの民家のつくりとほぼ同様だった。だから昔から男の集会場が特別なつくりだったわけではなく、たまたま男の集会場という形でしか、現在は昔の民家のつくりをしのぶことができなくなっているだけなのだ。
9)カダイ村の表記
踊りのシーンの前にカダイ村の石畳の小道を歩いていく場面で出た字幕が「
カデイ村」。集会場の建替えで忙しい村に強引に踊りをリクエストして、長老にまで出演してもらい、取材チームは村の中で何度も「ここカダイ村では」という説明を聞いたはずだ。それなのに、ああそれなのに、、、もうこれだけ書いてくると、頭の中では湯気が沸き立ち、タイプする指も目も疲れてフリーズしそうだよ。Ctrl+Alt+Del
ちょっとお茶を飲んで一息入れたら、もうひと頑張りする元気がでてきたので、さらに先を続けてみます。まだ続きを読んでくださる方々、ありがとう、ありがとう、ほんとうにありがとう<<<ここら辺も
きっこのブログの影響ナノダったらナノナノダ、なんていってみたりして(笑)。
さてカダイ村では子供たちの踊りが出てくる。ヤップの踊りは大勢で踊ることに意味があって、個々の踊り手もそれぞれ工夫を凝らしてオリジナリティを発揮しているけれど、全員がそろって統率がとれていることが大事とされる。当たり前だよね。タカラヅカのレビューだってそうだもの。それなのに、ああそれなのに、この画の撮りかた&編集はナンナノダ!!!ヤップの踊りをレビューに例えるのは申し訳ないのだけれど、ともかくレビューでいえば、一列の踊り手の端とか真ん中あたりだけをアトランダムにクローズアップしたり、足の部分だけとか手の動きとかのシーンをつなげて「これがレビューです」っていっているようなものになっていた。おそらくカメラアングルでも失敗していると思う。撮るほうにヤップの踊りについての予備知識がないから、踊りが始まる前にカメラの位置とか構図とかの計画が十分にできなかったのだろう。踊りがどこでどのように始まるのかくらい、事前に調べろよ、聞けよお~~~。それにしても、画面の編集、もっとやりようがあっただろうに!
あとは微にいり細にいるのでマトメていくけど、ミクロネシアの建造物を特徴づけるココヤシの繊維で作ったロープの素材を知らないらしく、ただの「強くしまる紐」で済ませたり、男の集会場の中で、男のヤップ人ガイドと女のレポーターが一緒に横になっているシーンがあったり(このガイドは家族と一緒にこれを見られないだろう)、小学校のシーンで日本語で質問された先生の答が質問とはずれてたり(コミュニケーションになってないんだから、あたりまえ)、ローカルのダイブガイドが「インストラクター」になっていたり(笑)。ダイブマスターやインストラクターってのは、いちおう職業の資格なんだから、これはマズイでしょ。そのうえ本人には可愛そうなことに、
番組ウエブサイトでは彼の名前は出てなくて、彼の勤めるサービスの日本人スタッフの名前になっている!?
これだけ書くのに(ビデオを何度もまわす時間を入れると)、もう4時間以上かかっているのだけれど、手に入った録画カセットテープには、ヤップ編の一週間まえに放映されたポンペイ編も入っていたので、ちょっとこっちの食べ方にも触れておく。でもワタシはポンペイのことはあまり知らないので、とっても気になった部分だけ、ヤップ在住のポンペイ人の友人に確認した。
それはシャカオの場面(番組ではサカオとなっている)。シャカオの儀式は、ポンペイの文化ではすっごくコアな部分だ。番組制作側が、ポンペイの人々と文化をほんとうにリスペクトしているなら、彼らの流儀をまず尊重しそれに従おうとするだろう。それが、、、ナント、女のレポーターが男の作り手と一緒になって、神聖なシャカオ石の上でシャカオをつきつぶす作業に加わってるのだ!ここでも邪魔な太鼓の効果音が入っている。それで、彼女の目の前で困ったような顔をして作業している若者のことをレポーターは、「きっと『オレあの娘のこと好きなんだよな』って考えながらついているんだろうな」なんて、ふざけたことを言っている。ポンペイ人の友人によると、シャカオを作る作業には、絶対に女は近寄れないとのことだ。おまけに出来上がったシャカオを、レポーターも音屋の兄ちゃんも、立ったまま容器を片手で持って飲んでいた。日本のお茶のお手前を、正座できないからといって外国人が立ったまま茶碗をわしづかみにして飲んだら、あなたはどういう気持ちになりますか?ポンペイでも、シャカオを飲む正しい作法は、座って、両手で容器を奉げもち、目をつむって、ひと口飲んで返す。すると(日本のお濃茶のように)容器は次の人に渡るのだ。
ことほど左様に、この「生サラダ」は、うっかりボーっと食べ続けたら、間違いなく中毒をおこすような代物だ。でも見た目はコンビニのサラダのように、とってもオシャレで万人の目をいとも簡単に惑わすから、なおさら怖い。しかしその毒気は、放置すると食べた人だけでなく、素材を提供した産地にまで及ぶ。そういうことが心配でならないから、ワタシはこうして深夜までかかって解毒剤を処方する努力をしているのデス。
毒の伝播の構図とは、こういうことだ。
1)番組視聴者の勘違い>>感覚的な映像だけ記憶に残る。
2)何かのきっかけで、あるいは番組に触発されて現地を訪れる。
3)感覚として残った映像がよみがえる。
4)よみがえった映像と同じシーンに出会うことを期待する。
5)旅行業者にその期待の実現をリクエスト。
6)旅行業者がお客の期待の実現をセットアップ>現地にリクエスト。
7)収入につながるなら、ってことで、現地は伝統を曲げてでもニーズに答えようと頑張っちゃう。
8)それが繰り返されると、現地(とくに若い世代)はいつのまにか、そのヤラセがホンモノと錯覚するようになる。
こうして、「伝統の根強く残る地球最後の楽園」(これ、モチロンよく使われるステレオタイプの宣伝文句へのワタシの皮肉です、誤解なきように)は、いつのまにか失楽園へと変遷をとげるのであった。
まあ、それもひとつの歴史の流れだといって達観できる人には、ワタシが今夜ついやした数時間の努力は、エネルギーと時間の無駄づかいということなんだろうけど、、、それでも、少しは評価してくださる方々へ:
皆さん、「生サラダ」はいちど直火(現地の現実)をとおして召し上がれ!
<制作者への教訓>
1.取材対象を心から愛すること。
2.取材には時間をかけ、足でしっかり事前調査すること。
3.番組準備・制作・編集・仕上げに至るまで、必ず現地の人をチームに加えること。
いまの日本のメディアには、どれも無理なことばかりですな、トホホ。
ヤップの旅の情報はこちらでどうぞ。
http://www.naturesway.fm/index2.html