昨夜半から降りだした雨が午前中まで残り、午後も曇り空の寒い一日だった。海で仕事をしていると、曇ったり雨が降ったりすると「寒い」。水温は27度、水に入ると「冷たいっ」と感じたのは、風邪気味のせいもあるのかなあ。今日のダイビングは、ギンガメアジとカンムリブダイの群れに囲まれた私たちの頭上を4匹のマンタが旋回してくれて、うすら寒いボートの上でもゲストは超ハッピーだった。良かった良かった(笑)。
ところで今日のニュースは、コロニアのガニール橋の電柱がやっと再建されたこと。2004年4月9日ヤップに超接近した大型台風Sudal(スーダル)による高波で、この橋の両側にあった電柱が海になぎ倒されてしまったのだけれど、なんと1年と10ヶ月ぶりにやっと建替えられたのだ。でもまだ電線は引いてない。もちろん、この電柱がなくても電気は他の配線を使って正常に供給されていた。だから電柱がない風景がいつのまにかあたりまえのようになっていて、今ニョッキリ立った2本の新しい柱に、ちょっと違和感を覚えるのだった。(2本と書いたけど、その2本目は写真の左端よりもっと左にあって、画面では見えないのデス)。
左の写真は2004年5月、台風の一ヵ月後に、この橋の反対側のガードレールの状態を写したもの。上の写真でもそうだけれど、このガードレールは今でもそのままだ。これを書くためにこの写真をファイルから捜し出してみて、あまりの違いのなさに笑ってしまった。何~んにも変わってない!(写真はKTさん提供)
台風Sudalのことは今後また機会をつくって書こうと思っているけど、この台風のおかげで、ヤップはほんとうに変わった。車の数が2倍以上になった。携帯電話が爆発的に普及して回線は始終パンク状態になった。ヤップ人の就業率が落ちた(よーするに、日銭稼ぐために働かなくなった)。島中あちこちでブルドーザーが山やジャングルを削り始めた。高価なチェーンソーを入手して大きな木を切り倒して売る人が続出。人の動きがせかせかしてきた。人が挨拶をしなくなった。そう、多くのヤップ人の心が劇的に変わったと思う。
なんでこんなことになったのかというと、FEMA(Federal Emmergency Management Agency)のせいだ。FEMAというのはアメリカの政府機関で、自然災害や人為的被害(アメリカ領土が核攻撃を受けたときとかね)の際に特権的に初期救済活動をすることになっている。FEMAの本部の地下は核シェルターになっていて、緊急時にはホワイトハウスをそっくりそこに移せるようになっているらしい。ちなみに
911が起きたときには、ブッシュはフロリダで小学生に本を読む芝居をしていたけど、副大統領のチェイニーは既にこの中にいたーそう、彼は前もって知っていたんだね。ともかく、そのFEMAが、台風Sudal被害の復興援助として、大統領特別決済で総額$32ミリオン($1=100円として32億円)をヤップ州に落としたのだ。当時は大統領選の前だったし、、、
その金のうち、約$8ミリオン(約8億円)が、約1300の被災所帯に「一時見舞金」として分配された。実は我が家でも屋根のトタンが3枚めくれて家中水浸しになり、おまけにパソコンの前の窓が吹っ飛んでオフィスが大被害をこうむった。そこでワタクシめも「被災者」としてFEMAに申請して、You are eligible to get assistance from FEMA.(あなたはFEMAの援助を受ける資格がありますよ)というありがたいご託宣を受けたのだけれど、FEMAがワタシにしてくれることにしたのは、台風の後3週間近く続いた停電中、煮炊きや明かりに使った灯油代の一部を補填ーというものだけだったので、馬鹿らしくなってそれ以上の手続きするのをやめてしまった。でもワタシと同様の評価を受けた人でちゃんと最終ステップまで頑張った人もいて、結果1ドル未満の小切手をFMEAからもらって怒ってた。
ヤップでは、まだ基本的に自給自足ができるから、給与所得を得る職についている人は、成人人口の3割にも満たない。また、いってみれば全員が地主さんで、おまけに土地には税金がかからないし、なにかあると一族郎党で助け合う社会だから、給与所得で稼ぐキャッシュは「宵越しの銭は持たねえ」の感じで使ってしまう人もすごく多い。そして家は「夜露をしのげれば良い」程度のもので満足している人も多いので、台風で壊れても、本当はまた何とか自分たちで建替えられるのだ。でも、そういう社会事情を考慮しないアサハカなFEMAは、ちょっとでも給与所得があったりワタシのような事業主だったりすると、グ~ンと「緊急度」が下がり、7割以上の「無職」世帯にドカ~ンと金をばら撒いた。一世帯の最高額は$500000(約500万円)。それを何に使おうがお咎めがないから、みんな車や携帯やDVDなんかになっちゃったり、アメリカ豪遊しちゃった人もいる。それに打ち続くパーティパーティで飲めや歌えのお祭り騒ぎ!結果、いたるところで病人の増加と人間関係のギクシャクを招いた。給与所得のある人っていうのは、たいてい学歴もあって外の社会にも明るく、大家族を事あるごとに支える立場にある人たちなので、そういう人に極端に援助が少なく、日ごろそういう人にぶら下がって生きていたお気楽な人たち=ということは日ごろあまりお金を扱いなれていない人たち=に、いきなり目の回るような大金が転がりこんできたわけだ。だから、ヤップ人の生活の基本である「ファミリー」(日本のような核家族でなく、親戚一族郎党を含んだ大家族)の関係が、ぐしゃぐしゃになっちゃった。
そういうことで人心をかき乱しながら、公共事業の復興が遅いのは、FEMAがあ~だ、か~だと復興計画や設計図に注文をつけるせいもあるらしい。FEMAの金でヤップのあちこちの石積み堤防が直ったのだけれど、サンゴの石をうまく組み合わせて積み上げる伝統工法では許可にならず、なんとセメントを使うように指示がでた。また高潮で大きな被害をこうむった砂浜の海岸地帯には、コンクリートで護岸壁ができちゃった。だからいま、ヤップの美しい海岸線の景観が、どんどん損なわれていっているのだ。長年の生活の知恵を無視した、このような近視眼的な工事や建造物が環境へ与える影響は、果てしなく大きい。
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