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ミクロネシアの小さな島・ヤップより

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カダイ村集会場の建替え

朝のうちは少し曇りがちでサラッとスコールが来たけれど、日中は晴れ上がり北東の風も強く吹いて、暑い一日となった。それでも朝のお湿りのおかげで、そんなに埃っぽくないから助かる。今年の乾期は適度に雨も降って、草木も人間もほんとうに大助かりだ。

今日は週末、ヤップの村ではサラリーマンも家にいる週末に、共同作業(ビレッジワーク)がよく行われる。村というのは、昔々から同じ場所に住みついた人々の生活単位、昭和の初期頃までは日本の田舎にも普通にあった風景だ。そしてヤップ人ならみんなどこかの村の出であるわけで、その村で何か共同でやることがある場合の拘束力は結構つよい。何かの都合で参加できない場合は、他の村の衆に同意を得なければならないし、差し入れや罰金という形で欠席のペナルティを果たすという決まりにしているところも多い。だんだん形も変わってきているが、こういうシステムがヤップの伝統をつなぐ一つの要素になっていることは確かだ。

カダイ村集会場の建替え_a0043520_21254327.jpgそんな村の共同作業でカダイ村の集会場ーヤップ語ではペバイという村の公民館的な施設ーが建替えられている。カダイ村は島の西のほぼ中ほどに位置する村で、人口約200人、平地が少なく海岸はマングローブに覆われている。そこの集会場が、2004年4月の台風で全壊したのだ。台風から1年経って人々の暮らしも何とか落ち着いた去年4月、やっと集会場建替えの作業が始まった。まずは集会場の柱となる大きなテリハボクを切り出し、色々な準備が整って写真のような主柱が立ったのが8月始めだ。

カダイ村集会場の建替え_a0043520_21261533.jpg次の写真は9月の始め頃。既に棟と梁が上がっている。小学校1年以上の村の男は原則として全員参加だそうだ。見ていると、青壮年期の男が実際の作業に従事し、老年期の男は分担して現場監督し、まだ小さい子供たちはなんとなくまわりで遊んでいる、という風景で作業は進んでいく。村の生活では、男の仕事、女の仕事の分業化がはっきりしているので、女は集会場の建設にはかかわらない。

カダイ村集会場の建替え_a0043520_21264843.jpgこれは10月末の状態。上の写真からあまり変化がないように見えるが、実は非常に細かい作業が続いているのだ。ヤップの伝統建築は釘を一切使わず、自然の木を曲がりもうまく利用して接合部を凸凹に彫って組み合わせ、ココヤシの繊維から作ったロープでくくっていく。大きな柱から屋根をのせる細い竹にいたるまで、ひとつひとつヤシロープでくくっていくのは根気のいる作業だ。しかも作業中は屋根の上に長いこと張り付いていなければならない。

カダイ村集会場の建替え_a0043520_21272599.jpgそしてついに屋根が葺かれた。屋根材はニッパヤシの葉だ。ココヤシの葉も屋根材に使うが、ニッパヤシの葉のほうが長持ちするという。ただ、ヤップにはニッパヤシはあまり豊富にないので貴重品だ。しかもこれらの屋根はだいたい4~5年で葺き替えなければならない。伝統建築を維持するのは、たいへんな手間暇と労力がいるものなのだ。ヤップでもトタン屋根とコンクリートのモダンな集会場を建てている村の多い中、敢えて伝統建築にこだわっているカダイ村の衆に拍手を送りたい。

もともと伝統建築の建物自体が、どんなに持っても20年から30年が限度だそうだ。台風が来なくても、木の柱や梁はシロアリにやられ、老朽化する。この2~30年というサイクルはとてもよくできていて、大きな柱にするテリハボクもそれくらいでまた大きく育つし、カダイ村のように3世代にわたって建替え作業に従事することによって、うまく伝統建築j技術の伝達ができる。もし2~30年後にカダイ村が集会場を建替えるとしたら、いま現場近くで遊んでいる子供たちが今度は作業に従事し、いま作業についている大人が老年期を迎えて現場監督となる。敢えて子供たちを巻き込むのは、そのためなのだ。

「伝統文化」は死守するものではない。博物館のショーケースに入ったものは既に「生きた文化」とはいえない。生活があってこその文化だし、文化があっての生活だ。今日の作業を終えた男が家に帰ってパソコンに向かっても、当人にとっては何の違和感もなく行われる日常生活だし、それこそが生きた文化というものだろう。急速な変化を遂げつつあるヤップの暮らしの中で、いかに上手く伝統の中にモダンなものを取り入れて融合させていくか、成功すれば、それが新たな伝統になっていくのだ。



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by suyap | 2006-01-14 23:04 | ヤップの伝統文化
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