若い頃の私は、ほとんど投票に行かなかった。
政治に関心が無かったわけではない。ただ「何をやっても無駄よ。自民党の体制は変わるわけない、間接民主主義なんて、所詮まやかしよ」という諦めと、政治家全般への軽蔑と不信感。格好よく言えば「積極的不投票」だが、「政治の動向と私の人生は別ね」というお気楽な選択でもあった、と今は思う。
そんな私が変わったのは、いつの頃からだろうか?
上に述べたスタンスのままで、私は日本を後にしてヤップに流れついた。ヤップで気軽にインターネットができるようになったのは1996年末から。それまでは一番早い情報はラジオで聞くVOAニュース、それをかいつまんで流す島のラジオ放送(英語、ヤップ語、離島の言葉、今でも最低3つの言語で順次同じニュースが読まれる)。でも私は日常的にラジオを聞く生活をしていないから、島の外の情報入手は非常に遅れ、また、それでもちっとも困らなかった。だから、1990年から1996年の間に起こった事件や日本人なら誰でも知っているような出来事について、私は今でも非常に疎いと思う。
そんなある日、私は家にいて日ごろ聞かないラジオをなぜかその日はつけていた。ヤップ語のニュースが始まり、ふと私の耳が「ピルング コ サパン、ホソカワ」というフレーズをつかんだとき、「?」 それから私の耳は全開状態になり英語のニュースを待って理解したことは、「どうやら日本で大きな政変が起きたらしい」ということ。ふ~ん、こんなこともあるんだなあ、との感慨。
それでも私の政治への関心は、ニュースの入ってくるスピード同様そんなに変わらなかった。1995年1月に関西方面で大きな地震が起きたとき、一番正確な状況を日に何度も報告してくれたのは、島の北側に住む親日家のヤップ人のおじいちゃんだった。山に邪魔されない北側は、日本のAM放送が時によって結構高感度で入るのだ。彼は神戸に友人がいて、一日中ラジオにかじりついて状況把握に努め、友人の安否を気遣っていた。
このおじいちゃんはすごい人で、後日コソボ紛争が起きたとき、「スーさん、私は今までアメリカは良い国だと思っていましたが、違いました。けしからん国です」と凄い剣幕で話し始めたことがある。もうインターネットができるようになっていたが、私にとってコソボは遠いところにあり、正直なところ当時は無関心で何が起きているのか深く考えてもいなかった。それなのに、彼の情報源はヤップ語で聞く島のラジオニュース(ソースはほとんどVOA)と、かいまに聞く日本のAMラジオ放送、どちらもアメリカに不利になるようなニュースを提供するとは思えない。なのに、彼は自分の頭でニュースを咀嚼、分析、検討して、「よその国に攻めていくアメリカが悪い」という結論に達したのだ。彼のような人を「哲人」というのだなあ、昔は日本にもヤップにもこのような人が結構いたものだ。
さて1997年以降インターネットができるようになってから、私の日課には日本と世界で何が起きているかを毎日チェックすることが加わった。よく「僻地ほどインターネットの恩恵がよくわかる」と言われるが、ほんとうにそうだ。初めてインターネットにアクセスしてネットサーフィンを経験したとき、「これで地球上インターネットができる環境があればどこに住んでもいいな」と思った。
そんなこんなで徐々に世界情勢に関心が向いてきてはいたが、、まだ政治(=世界情勢)と自分の生活がそんなに密接には感じられなかった。わたしの商売である
ダイビング&各種ツアーの会社の日常業務をこなすので目いっぱいの生活だった。それを大きく変えるきっかけになったのは2001年9月11日にニューヨークで起きた事件(以後「911」)と、先の日本国内閣総理大臣・森喜朗の肝いりで2002年8月から始まった
「少年少女自然体験交流ーミクロネシア諸島自然体験ー」(以後「森の事業」と呼ぶ)だったと思う。
911のほうは、最初は「アメリカひとり勝ちの世界戦略の中ではテロリストの気持ちもわかるなあ、でも本当に彼らがこんな大掛かりなことをやれたんだろうか?」程度の認識で、CNNのサイトを目を皿にして追っていた。そんなあるとき、とっても目が点になったのは「首謀者アタのパスポートを消防士が瓦礫の中から拾った」というニュース。「そんなあ~~」でもそのニュースはすぐにサイトから消えた。
911から半年後くらいだろうか、その間アメリカはアフガニスタンに侵攻し、オサマは雲隠れし、ブッシュがイラク侵攻もほのめかしていた頃、
http://serendipity.cia.com.au/wtc.htmlというサイトにいきあたった(注1)。911の状況を、写真や図説でひとつひとつ検証してあり、アタのパスポートの件も触れてあった。それに毎回飛行機(737)の離発着を至近距離で見ることのできるヤップ島に住んでいる身には、ペンタゴンに鼻先をぶち当てて止まったことになっている旅客機の存在が、嘘っぱちだというのは実感として同意できた。そして、この記事を読んで以後、私の世界を見る眼は変わった。「冗談じゃない、このままでは大変なことになる。もう遅いかもしれないけれど、私にできることを何かしなけりゃ、この世に生きてる意味がない。」
(注1)ご覧のように上記サイトは既に存在しないが、現在では911真相究明サイトがかなり日本語で読めるようになった。
911関連
http://helicopt.hp.infoseek.co.jp/pentagon04.html
http://nvc.halsnet.com/jhattori/green-net/911terror/nyterror.htm
http://homepage.mac.com/ehara_gen/jealous_gay/muck_raker.html
また日本のメディアが流さない世界のニュースを独自に収集分析して配信しているサイトとして、ここもお奨め。
http://tanakanews.com
森喜朗の事業に関しては、はじめは「冗談じゃない、ヤップに子供団体旅行100人なんて、馬鹿げたことだ」くらいで反対し始めたのだが、出るわ出るわ、いろいろなつながりが。日本では珍しくもないであろう政治家の公金横領のカラクリのひとつなんだろうが、そこにヤップと旅行業界という私の生き様とも接点のあるキーワードが加わっているために、泥沼関与(もちろん反対派として)するに至ってしまった。森の事業を全面委託で仕切っていた「財団法人・世界青少年交流協会」は、2004年7月、警視庁捜査2課の家宅捜索を受け、それでも押して敢行した事業の真っ只中、子供たちがまだミクロネシアにいる間に、会長であった森のおっさんは当該財団の自己破産=解散を宣言し、同年9月に副会長以下幹部5名の逮捕。10月には4名起訴。2005年5月に4名の有罪が確定、という流れの中で、もう今年は来ないだろうと、タカをくくっていたら、違ったんですねえ。今年は「子ども夢基金」を取り仕切る「独立行政法人・国立オリンピック記念青少年総合センター」内の「基金部管理課」というところが窓口となって(センター直轄事業には、どうも見えない)、怪しい募集をかけて決行してきた。
それがどんなに怪しいかというと:
1) 問い合わせ窓口がセンター内ではない。<<レンタル電話取次ぎだった。
2) 参加費の振込みは旅行会社宛。
3) 事前にヤップに来たことがあるのは旅行会社添乗員と毎度のコーディネーターの2人のみ。
4) 参加費はひとり8万5千円だが、日本のビジネスホテルのツインルーム位の広さしかないホテルの部屋に、小学5年生から中学2年生の子供を4人ずつ入れて4泊(もちろんその部屋代も買い叩いています)、また小学校の教室でも(キャンプと称して)2泊させ、ヤップ州青少年課におんぶに抱っこで島内観光などやらせれば、飛行機代、食事代、ホテル代、島内移動費、観光活動代くらい、この金額で軽くまかなえる(私はいちおう旅行業のはしくれです)。
担当旅行会社の日本旅行は「独立行政法人・国立オリンピック記念青少年総合センター・基金部管理課」にいくら請求したのだろうか?ちなみに、「この事業は子ども夢基金の事業費で運営しています。同事業の決算報告書の情報開示請求をしてもいいが、開示するかどうかの判断はセンター理事長の決済になります」とは、同センター基金部管理課の弁。へ~~、どなたか、やってみませんか?
森の事業で一昨年も去年も今年も大勢の子供たちがやってきたが、私は本業のほうが忙しくて正直あまり時間を割いて追っかけできなかった。今年は、うちのお客さんをヤップ空港の出発ゲートで見送った後、搭乗時間ギリギリになってついに子供たちをゲートに誘導してきたので、まだゲート前にいた私は、
「ねえ君たち、ヤップはどうだった?君たちのお父さんやお母さんは8万5千円も払って君たちを参加させてくれたんだよ。日本政府のお金も出ているんだよ。でも、見たでしょう?君たちがどんなに小さなホテルの部屋に押し込められたか、ちゃんと報告するんだよ。それにヤップ州の政府も日本から援助もらっているから逆らえなくて大きな州予算を割いて君たちをもてなしたんだよ。君たちのお父さんお母さんが払っている税金の大きなお金がどっかにいってると思うよ。全部伝えるんだよ」
というような内容の演説開始。はじめヤップ人のような真っ黒なおばさんが日本語しゃべるのでびっくりしていた子供たちは次第に目をキラキラさせて注目し始め「おっ、手ごたえあるな」と思っていると、子供の行列の後ろにいた旅行会社の添乗員とコーディネーターがやおら携帯無線機を手にしているのが見え、とたんに私はヤップのオマワリに羽交い絞め、引きずられ(子供たちの目の前でですよ!それでも私は演説を止めなかった。う~ん、高尚な映画のヒロインにでもなった気分でしたな)、パトカーにぶち込まれ、コロニアの警察のオリの中に飛行機が出るまで収監された。
ヤップでは酒飲んで騒いでいる奴がいると平気でオマワリ呼ぶし、オリ(ヤップ語でカルボス=スペイン語由来=スペインが初めてオリという概念とツールをヤップに持ち込んだから)に入れられても、「おまえオリに入ったんかいの、わっはっは」ですむ世界でもあるので、私の島での立場には微塵も差し障らない(むしろ話題提供で笑える)。今回も収監したオマワリが「スー、おれオマワリの仕事やんなっちゃったよ、雇ってくんない?」なんて言ってくる始末。オリの中はションベン臭くて座る気にもならず、一番恐れたのはオマワリ交代の時間になってオリの中の私を出し忘れることだったので(いくらなんでも翌朝までオリの中で過ごすほどお人よしではない)、飛行機出発の頃合をオリの小さく高い窓からのぞむ(なんかこんな歌なかったっけ)夕日の加減で推し量り(時計も取り上げられるのです、オリの中)、I shall overcome!を歌い始めた(私も古いのう)。歌うこと約30分、ようやくシャバに出られたのであった。
今回ヤップにやってきた森の事業主催者側は、ヤップ州知事以下ヤップの人々に、「去年までのプロジェクトの中にいた『悪いやつら』は一掃されて、今年からは全く違うメンバーで『良いプロジェクト』だから」と説明したという。奴等は私が日本での動き(財団解散、関係者逮捕、有罪確定のニュース)を州知事など主だった人々に逐次報告しているのを知っていると思う。でも結果は、すべて今までのスタイルを踏襲、「袖の下」のばら撒き方、特に酷いのは日本の子供と遊ばせるために召集されたヤップの子供にも金を渡していること。こういう不透明な出費の計上は、いったいどう処理しているんだろう。これだけでも、臭いぜ。
森の事業についての記述がいささか長くなったが、要するに、私はひょんなことから日本の国政の中枢に鎮座する不細工なおっさんの顔のまわりをうるさく飛び回るウンカの一匹になってしまったような感じなのですね。そして先月の911総選挙。「うーん、日本は平和でええのう、あんたのように言いたい放題いっとると、どっかの国だと消されるでえ!」 「えっへっへ、そうっすねえ」と言ってはおられない状況になってきた。
森のおっさんがウンカの一匹二匹三匹ひっぱたいたって(その一匹が私でも)たいして困らないが、おっさんとその同盟者(コイズミのジュンちゃんたちね)が特注殺虫剤をしかけたら、こりゃウンカ全滅や。大変なことになる。で、事態は非常に危機的なんです。特注殺虫剤=
共謀罪を仕組んだ法案が、今国会でまさに上程される動きが濃厚。すでに大政翼賛会と化したマスコミではまったく触れない、この日本を大きく変える一大事!
↑ ↑ そんなこんなの思いが一気につのって、無謀にもブログとやらいうものに手を染めてみることにしたのだった。
次の記事を読む
(参照:森喜朗@ミクロネシア)
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ミクロネシア諸島自然体験‐2006年少年少女自然体験交流-その壱
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