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ミクロネシアの小さな島・ヤップより

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2012年のヤップデイ-2日目(伝統踊り編)

ただいまヤップデイ期間中に撮った踊りのDVDを大量作製中。ときどき地面が傾くお粗末な録画でも(苦笑)、踊りに係わった人たちに喜んでもらえるならと、せっせとコピーを作ってあげている。ところでこんな小さな島の、しかも見たこともない踊りなんかに興味のない人も多いのだろうけれど...それでもめげずに、いちおう2日目の「踊り編」をまとめておきます。日本から怪しいメディアも来ていたから、また間違ったストーリーが流される前に...ね。

さて2012年「速成」ヤップデイ、2日目の踊りの初っぱなは、ギルマン小学校の子供たちによるガメルガメルの歴史については初日の記事をどうぞ)だった。
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これは去年の10月にコロニアで催されたワールド・フード・デイにちなむイベントに、あとで出てくるマアスとともに出されたのと同じ踊りだ。ヤップデイ委員会もそれを承知で(すぐに準備ができるから)出場を頼んだのだろう。人数は少ないけれど、みんな元気に踊っていた。

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ところでこの踊りの名前はガフゴウとのこと。ガフゴウとは辛さとか困難・困窮を意味するヤップ語で、第1日目に踊られたカダイ村のガフゴウ・ウ・タナ・マルと同様、太平洋戦争中の出来事を語った踊りだ。

あの踊りの名前はなに?ああ、ガフゴウってんだよ...みたいに、日常会話ではヤップの人たちはよく言葉を端折る(日本語でもそうだけどね)。マルとは「戦い」、タン+エで「~の下で」という意味だから、この踊りもカダイ村のと同じようにフルネームはガフゴウ・ウ・タナ・マルなのかもしれない。
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そして、そのあとに出てきたカニファイ地区の女の座り踊り(プルブット)も...なんとガフゴウと呼ばれていた!

なんでガフゴウ(困難・困窮)なのかといえば、もちろん、日本やアメリカの軍隊が突然やってきて、ヤップ島の上でドンパチやったお陰で、住む家を追われ、食料も乏しく、爆弾・機銃掃射の雨あられ...という戦争中のお話。
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だから、この踊りのフルネームも、ほんとうはガフゴウ・ウ・タナ・マルっぽい。

ところで端っこに連なっていた小さな女の子、みんなの所作についていくのはまだ無理だったけれど、30分以上にも及ぶ踊りのあいだ、ムズかりもせず、お行儀良くちょこんと加わっていた。
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そして最後に↓サキといわれる立ち踊り↓になったときでも、まわりのおねえちゃんたちに埋もれながら、なんとか列にくっついていっていた。たいしたものだなあ...。子供が興味を示す限り、こうして小さいうちから踊りに加えて、本番にも出してしまうのがヤップ式の教え方。
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さて次に登場してきたのは、トルー村の女の座り踊り。人数が多いのでモドキの建物群れとウンベイの間には納まらず、入口近くの広場で踊られることになった。今回のヤップデイでは場所が狭い上に場の使い方も定まらず、踊りが入場するたびに観衆はあわてて座を変えるという事態がよくあった(苦笑)。

※それに踊り手にとっては、ぬかるみやすい埋立地に速成で敷かれた砕岩に、立ち踊りの裸足や座り踊りの尻や足が、さぞかし痛んだことだろうと思う。
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さて、この踊りの呼び名はシコーキ、ヤップ語では「ヒ」は「シ」となまるから、つまりこれは日本語のヒコーキからきた言葉だ。太平洋戦争中にヤップ島上空にやってきて爆弾の雨を降らせたアメリカの戦闘機、とくに超低空を飛んで空撮していく偵察機を見て恐れおののくヤップの人々、飢えに苦しむ日本兵、海辺の家を追われて内陸に強制移住させられたヤップ人の苦しい生活...などを語っているという。
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ヤップの座り踊りでは、ほとんどすべての表現は手と腕、首の動きでなされる。この踊りでは、女たちが左右に広げた腕と手が、ときどき飛行機の翼のように動き、最後にルルルッという掛け声があった。

これら戦後にできた比較的新しい踊りでも、謡は古い言い回しや韻を踏んでいるので、ヤップ人にも聞いただけでは意味がよくわからないらしい。しかし、こうして踊りのストーリーや背景を知ってから観ると、なるほど...とわかってくるものがある。日本で言うと能楽鑑賞のようなものかしら?
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この日は合計5つの踊りが披露されたが、最後から2番目を飾ったのは、なんとヤップデイに初登場のマアス、つまり日本統治時代に「発生」した行列踊りだった。それにしてもガメルでさえチュル(ヤップの伝統踊り)ではないという人もいるのに、マアスまでヤップデイに出すようになるとは...!(マアスについては、この記事こっちの記事をどうぞ)。
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これを踊っているのはギルマン小学校の子供たち、この日初めのガメルと同じく、去年10月のイベントで踊られたものだ。残念ながら、この踊りの意味や名前を知っている人は(大会のMCにすら)いなかった。

もっと残念だったのは、たいていはヤップ語だけの説明で済ませるMCが珍しく英語でしゃべった内容で、「この踊りは日本統治時代に、日本人らを楽しませるために日本人統治者によって作らされたものだ」と言っていた。不思議なことにヤップ語ではそんな説明はしていなかったんだけどなあ。こうやって嘘の歴史が紡がれていく...。
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戦後のヤップでのマアスの位置づけは、学校での体操踊りのような感じだったのか、小学校の卒業式などでもよく披露されていた。その歌や掛け声にはドイツ語、日本語、英語にいろんな島々の言葉が混じり、さらに往時の流行歌がメドレー的に入る。よくわからないけれど、いまどきのヒップホップの組み踊り版のようなものと言えるかも?
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そして今年のヤップデイ、締めはやはり...まだ日が高いというのに...ガシュラウ(男のエロチック踊り)だった。登場したのは去年のヤップデイでも登場したアミン村のチュルグヨイ初日のトミル地区のガシュラウと同じく、こちらも今年は小さな子供が中心の少人数で踊られた。
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謡われているのはこの踊りの名前にもなったチョルグヨイという男の物語。神さんたちの許しなく木々を燃やしてしまったために、その怒りに触れたチョルグヨイは、ある日、ビンロウの実と一緒に噛む石灰を入れる容器を畑に置き忘れてきたので探しに行ったところ、なぜか森の中にさ迷いこむはめに。ようやく家に戻り着いてみると、自分ではたった1日だと思っていたのが実際には数十年も経っていて、親戚縁者はみんな年を取り、中には死んでしまったものもあった...という、まるで浦島太郎のようなお話。
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それでもガシュラウなので、所作には怪しい手つきや腰を使う動きがたくさん盛り込まれているのだけれど、なんといっても今回はこういう小学校低学年の可愛い男の子たちが主体だったから、ち~っともエロっぽく見えなかったのだけど(笑)。
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2日目も前日同様に、ヤップの踊り披露としては異常なスピードでサクサクとプログラムが進行していき、終了予定時間の1時間以上も前に、すべてが終わってしまった。しかもプログラム上では、最後に優秀な踊りの発表ならびに表彰が行われることになっていたのに、これは後日に延期とあっさり発表された。

というわけで、この日も「やれやれ、終わった、終わった~♪」とホッとしながら、さっさと後片付けを始める大会関係者たちの姿が見られたのであった。

それにしても、今回のヤップデイで9つ出された踊りのうち、5つが太平洋戦争中の体験を語り継いだもの、さらにもう1つ(初日最後のヤウール)はドイツ&日本統治時代のアンガウル島への強制労働についてだった。こういうことを知ってて観るのと、ただ異文化の珍しい踊りとして他人事で観るのとでは、ずいぶん印象が違ってくるでしょう?


ヤップデイ関連記事:
2012年のヤップデイ-1日目
http://suyap.exblog.jp/14780736/
2012年のヤップデイ-1日目(伝統踊り編)
http://suyap.exblog.jp/14792716/
2012年のヤップデイ(その他の展示)
http://suyap.exblog.jp/14821689/

今年のヤップデイは気合が入ってます?
http://suyap.exblog.jp/12200044/
20011年のヤップデイ-ヤップ人全員伝統衣装で参加すべし
http://suyap.exblog.jp/12216654/

2010年のヤップデイ
http://suyap.exblog.jp/10086636/
(続きを書いてません...とほほ)

2009年のヤップデイ-1日目
http://suyap.exblog.jp/8017150/
2009年のヤップデイ-2日目
http://suyap.exblog.jp/8043952/
2009年のヤップデイ-伝統料理編
http://suyap.exblog.jp/8043993/

カヌー・セーリング
http://suyap.exblog.jp/6848207/
2008年のヤップデイ-1日目
http://suyap.exblog.jp/6853042
2008年のヤップデイ-2日目
http://suyap.exblog.jp/6859793/
2008年のヤップデイ-食べ物編
http://suyap.exblog.jp/6874909/
2008年のヤップデイ-踊り編
http://suyap.exblog.jp/6875261/
2008年のヤップデイ-ちょっと心配編
http://suyap.exblog.jp/6875271/
2008年のヤップデイ-あきれた編
http://suyap.exblog.jp/6875288/

2007年ヤップデイ・1日目
http://suyap.exblog.jp/5185908/
2007年ヤップデイ・2日目
http://suyap.exblog.jp/5189191/
2007年ヤップデイ続き-男の仕事
http://suyap.exblog.jp/5189280/
2007年ヤップデイ続き-女の仕事①
http://suyap.exblog.jp/5196595/
2007年ヤップデイ続き-女の仕事②
http://suyap.exblog.jp/5197162/

2006年ヤップデイ・初日
http://suyap.exblog.jp/3275793/
2006年ヤップデイ・2日目
http://suyap.exblog.jp/3281540/


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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by suyap | 2012-03-06 22:37 | ヤップの伝統文化
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