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ミクロネシアの小さな島・ヤップより

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ヤップのクロチョウガイ

真珠というと、日本の人ならすぐにアコヤガイ(Pinctada fucata martensii)を思い浮かべるだろう。しかし80年代初頭には世界市場に90%以上のシェアを誇っていたアコヤ真珠も、いまや20%を割ってさらに減少し続けているという。日本人の手によって19世紀の末に世界で初めて養殖真珠の技術が開発されてから、いまだにその専門性とノウハウ、規模、伝統、信頼性、国際的な顧客基盤では日本がダントツ...とはいわれても、さて今後はどうなりますことやら?

...などど突然ここで真珠の話を始めたのは、、生まれて初めて「南洋真珠」養殖の話をくわしく聞く機会が最近あったから。南洋真珠とはシロチョウガイ(Pinctada maxima)やクロチョウガイ(Pinctada margaritifera)を母貝とする真珠のことで、これも20世紀のはやいうちから太平洋のあちこちで日本人が手がけてきた。
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ところでヤップには昔からこれらの貝を大切にする習慣があった。上の写真はヤールと呼ばれるその「お宝」だ。こういうヤップの伝統的な「お宝」を「貨幣・お金・キャッシュ」と考え違いしている外国人が多いけれど、これらは決して「お金」ではない。売買が成立すると両者の関係がプツンと断ち切れてしまうお金(キャッシュ)にたいして、これらヤップの「お宝」は「両者の関係を作る」ツールであり、交換を通して両者はより深く結ばれる。したがって「お金」と「ヤップのお宝」はまったく正反対の働きをするわけだ。

それはともかく、ヤップ人の先祖はこのヤールになる貝を得ようとこぞって遠方まで航海に励んだという。どれほど遠くから、どれほど美しく保たれて、いかに大きな(分厚く)...というのがヤールの評価基準のようだ。お詫びやお礼や婚姻による家同士の固めやその他諸々のケースなどで、いまだにヤップ人の生活にヤールは欠かせない。
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実はシロチョウガイとともにヤールとされる貝のひとつであるクロチョウガイは、ヤップの浅い海でも見つけることができる。それなのに誰もそれでヤールを作ろうとしないのは、ヤールを含めてヤップの伝統的な「お宝」の交換時にはそれの由緒、いわれ、系譜などを含んだ口上(プリゼン)を述べるセレモニーがあり、そこで「これは先祖がヤップのどこそこの海で取って来まして...」と言ったのでは、「な~んだ、それじゃ努力の汗も命も時間もかけてないじゃないか」になってしまうからだろう。嘘をついてもすぐにバレるほど小さな島だからゴマカシは効かない。
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というわけで、ヤップのクロチョウガイはいままでリーフの片隅でひっそりと静かに生息してきた。おまけにミズイリショウジョウガイのような派手さはないので、ダイバーからもほとんど見向きもされないし...というか白状すると、南洋真珠の話を聞くまで、わたし自身もまったく関心を持っていなかった(恥)。

真珠貝の養殖には気の遠くなるような時間と手間と根気と、そして当然それを維持するお金もかかるという。しかしミクロネシア連邦ポンペイ州で細々とスタートした真珠養殖のプロジェクトでは、関係者の努力の甲斐あって数年後にして最近ようやくわずかな真珠を産出できるようになった。これからの継続がもっと大変のようだが、頑張っていただきたい。
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少し前のこと、ヤップでも真珠養殖プロジェクトをやってみますか?と話が来たとき、多くのヤップ人が当惑顔で、ヤールが島にたくさん出まわるようになると困ったことになる...と言ったとか。今でも真珠養殖の話になると、「真珠を取りだしたあとの貝は粉砕して処理するというルールを作らなきゃいけないだろうな」ということが大真面目に語られたりするのは、いかにもヤップらしい。果たしてこれから貝ガラではなく中から取れる真珠にロマンと愛情を見出し、長い時間と手間と根気をそそいで養殖事業に取りかかろうとする人がヤップでも出てくるだろうか?

ところでわたしの目下の関心は...クロチョウガイって食べるとどんな味?ということ(爆)。

養殖をやっている人たちからの噂では...お味はけっこうイケルらしい。そこで好奇心だけは旺盛なわたしとしては、ヤールを海中で見たことがあるというヤップの男たちに「どんな味?」と聞きまわっているのだけれど、まだ食べたことのある人に行き当たらない。ああ気になるなあ...とはいっても、そんなに資源量が多そうにも見えない(どっちかというとレアかも)ヤップのクロチョウガイを殺すのは嫌だから、ここはやはり誰かに真珠養殖を始めてもらって、その副産物をご相伴にあずかるというのが一番なのだが(笑)。

それにしても豚に真珠とは、まさにわたしのような者のことを言っているようだね...とほほ。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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by suyap | 2011-11-09 17:08 | ヤップの自然・海
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