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ミクロネシアの小さな島・ヤップより

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新しいカヌーの進水式

曇り空の土曜日、ガギル地区はガチャパル村の、新造カヌーの進水式に行ってきた。

ちょうど3年前に進水した大型カヌー、マソー・メラムと比べると、長さはほぼ半分だけど、喫水は同じくらい深い。このカヌーの名前はまだ決まっていないそうだ。
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午前8時30分スタート...というお触れだったので、午前10時前に行ってみると、集まっている人々はまだまばら(笑)。カヌーの側に仮設の屋根がしつらえてあって、ガチャパル村のエライさんを中心に男たちが集まっており、三々五々、献上するビールなどを持って到着するゲストを迎えている。

そのうち誰かが椰子酒の大瓶を持ってきて、エライさんたちの酒盛りが始まった。あの椰子酒、わたしたちも飲めますか?と興味津々のゲストに、このあとで料理が振舞われて酒盛りが拡大したら、そしてたくさんの椰子酒が集まれば、その可能性はあるでしょう...と、前回の盛大な進水式を思い浮かべながら答えたわたし。しかし、どうやら今回はかなり内々の催しのようだ。

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ふとエライさんたちが集っている奥に目をやると...エッ!、↓棒に通された3枚の石貨↓が、細い木の枝に架っている!?

このカヌーの進水を祝って、誰かがこれらの石貨を献上したのだろうか。それにしても、いくら小さいとはいえ、これだけの石の重さを、あの細い枝でよく支えられるものだなあ...。こんな石貨の置き方、初めて見たよ。普通は地面に置いてあるんだけどなあ...。

石貨が飾ってあるのは、エライさんたちが座っている場所のその向こうなので、仮設屋根の隅のほうで小さく控えている女の私としては、近寄って確かめることはできない。まあ、そのうちわかるだろう。
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やがて、だんだんと潮が満ちてきて、午前11時過ぎ、ほぼ満潮となったころ、何の前触れもなく、若い男たちが動き出した。

振舞われたパン2個と椰子の実をのんびり楽しんでいたわたしたちも、あわててカメラを持ってカヌーの側に駆けつけた。
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小さ目とはいえ、アウトリガーもいれるとその幅はけっこう広く、このカヌーの重量もかなりのものだろう。それを人力だけで、木の上を転がしながら、水辺まで持っていく。
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押し出されていくカヌーの両サイドの動きを見ながら指示を出す者、機転を利かせながら先にまわってコロの木を移動させる者、カヌーに取りついて馬力を出す者...、年寄りやエライさん、そして村外から来たゲスト以外、集まった男たち全員が、それぞれの役回りを率先してこなしている。みんな、なんだか楽しそうだ。
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ようやく水辺にたどり着いたカヌー、でも、まだ気は抜けない。カヌーはちゃんと水に浮くだろうか?アウトリガーとのバランスは...?みんなの注目が集まる。

なんといっても喫水が深いので、浅い浜ではまだわからない。ある程度の水深があるところまで、ヨイショ、ヨイショともうひと息だ。
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ようやくカヌーがふわりと水に浮いたところで、ホーッとひと息。それから舵や帆柱、帆などの艤装品を積みこみ、帆柱を立てる作業が続いた。ここでも、いろいろ四苦八苦しているところをみると、まだ慣れていない若者へのトレーニングも兼ねているのかな?
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ようやく帆柱が立って、ひと休みしていると、エライさんたちの方から指示が飛んだのだろう、10人以上の男たちが再びカヌーに乗込み始めた。エエ~ッ、ちょっと人数が多すぎるんじゃないの?と思ったけれど、積載量の実験を兼ねているのかも?そしてカヌーはビクともしないで浮いている。

そこからエッサエッサと手漕ぎで沖に出て、帆を上げる作業が始まった。
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風は南西の微風、東向きのガチャパル村の海面は、プールのように静まっている。この風ではカヌーはグングンとは走れないだろうけど、練習にまもってこいかも?

ガチャパル村には「男の家」(ファルー)がふたつある。ヤップ島のファルーはかつて、漁業協同組合のような役割もしており、ひとつの村に複数のファルーがあるところも珍しくなかった。そして、ここガチャパル村には、↓こちら↓のように伝統建築で建てられたファルーと、
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今回カヌー進水をした場所のように、↓超モダンな建物↓にしちゃったところとがあって、その両極端さがおもしろい。

しかし、建物がモダンになったからといって、それまでの伝統が変わるわけではない。この村の女たちは絶対にファルーには近寄らないし、わたしもそれに敬意を表して近寄らなかったけれど、ファルーの先に長く伸ばしたカヌー用の桟橋に、同行のゲスト(女性)が行っても良いかどうか、まわりの女たちに聞いて見ると、ファルーの土台と、その近くにある儀式用の土台には乗らず、端をほうを歩いて桟橋に出るのならOKとのことだった。
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そういうわけで、ゲストと別れたわたしは両ファルーの真ん中あたりの海岸に陣取って、沖のほうで帆上げに四苦八苦しているカヌーをウォッチしていたら、この村のおばちゃんがやってきて、「ビンロウジュの実、噛むかい?」から始まる世間話に付き合うことに。まだ実が少ないこの時期に、惜しげもなく実をくれたってことは、このおばちゃん、きっとおしゃべりしたかったんだね。

そうこうしているうちに、何度かのヒヤッとする瞬間があったけれど(苦笑)♯、ようやくカヌーが順調に走り始め、一回、帆を返して戻ってきた。それからまた帆を返し、なかなかこっちに戻る気配がない。そのうちカヌーを見に集まっていた人の数がどんどん減り始め、盛り上がっているのはエライさんたちのところだけとなった。あれあれあれ?今回はカヌー試乗も、踊りも、ご馳走もなし???まあ、初めから「内輪」って感じはしていたのだけれど。
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というわけで、椰子酒を飲む機会に恵まれなかったゲストにはお気の毒だったけれど、お腹も空いてきたことだし、わたしたちも、そろそろその場を後にすることにした。

そして立ち去る前に、エライさんたちのところにご挨拶に行こうとしていたら、例の石貨が、目の前に運ばれてきた。しかも、やけに軽そうにひょいひょいと(笑)。ちょっちょっちょっと待って!
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あわててカメラを取り出して、よ~く見ると、なんとそれは石貨ではなく、サランラップに包まれた、石貨の形に作ったココナッツ・キャンディだった!それにしても、よくも似せて作ったものだなあ...。その後、そのココナッツ・キャンディ石貨は、ふたりのお兄さんに軽げに担がれて、村の中に消えていった。

ところで、最後にエライさんたちのところに挨拶に行ったとき、某国大使館勤めという女性がエライさんの座に上がりこんで嬉しそうにしておられたのを目にしたので、ちょっとひと言、書いておきたい。そりゃ~、ヤップのオジサンたちは、いかにも彼女をウエルカムしている風を装ってただろうけど、ちょっと空気を読む気になれば、その場がしっかりと互いの上下関係や立場の違いによるシステムでまわっていたことに気づけたはず。そして女子供、若者など、誰も近くにいないことを。

観光客といえども、ヤップで評価されるのは、地元のやり方に対するリスペクトフルな態度。口では何も言われないけれど、あなたの一挙手一投足は、まわりから注意深く見守られてます。〇〇さんのお陰でアタシだけエライさんの座に混じってお話できたのよ...なんて、某国在外公館職員の彼女が勘違いしないことを祈る。そして、ヤップでは、あなたが考えるエライさんだけがエライ、のではないってことも、知っておいてね^^

<追記>
♯わたしたちが去ったあと、残ったヤップ在住アメリカ人とわずかな(1人?)観光客のために、カヌー体験乗船がゴリ押し提供されたみたいですね。あげくに転覆、怪我をされた方もおられたようで、ご愁傷様でした(良い体験だったでしょ)。この日のクルーは見るからに経験不足、遠めで見るカヌーはすこぶる不安定...わたしたちに、「きょうは乗船はないよ」と言ってくれた主催者は、正解でした~♪

(参照)
新造カヌーの進水式-その1
http://suyap.exblog.jp/7423556/
新造カヌーの進水式-その2
http://suyap.exblog.jp/7425642/


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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by suyap | 2011-08-21 13:50 | ヤップの伝統文化
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