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ミクロネシアの小さな島・ヤップより

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踊り上げな週末-ソル村

また長いことブログを放り出して、諸々の用件でバタバタしておりました...。わたしがここに書く駄文をチラ見しながら安否を気づかってくれているリアル友もいるようで、ついに「ヤップにいるの~?生きてる~?」とDMまでもらっちゃって...ありがとねー^^

さて、そのバタバタの理由のひとつは、先週末、両日にわたって行われた、ふたつの村の「踊り上げ」だった。それぞれの村に、ちょこっとわたしの関係している人たちがいて、ヘタクソな映像ながらビデオを撮って、あとでDVDにしてあげることを期待されている。数ヶ月にわたって練習し、本番のパーフォーマンスを終えたたくさんの踊りが、この2日間で「上げ」られた。

以下、ビデオから起こした画像で、この「踊り上げ」のイベントを、2回にわけて掲載しよう。
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土曜日の午後は、まずトミル地区のソル村で。ここはヤップ島のまんなか辺の火山性赤土地帯だから、土の赤と濃く染まった木々の緑がよく映える。参観者が大勢で集っているにもかかわらず、踊りが入場する前の村の公民館(ペバイ)前の舞台(マラル-外国人には「石貨銀行」と呼ばれている場所)は、ひっそりと静まり返っていた。
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ヤップの伝統踊りは、ニンゲン界だけのパーフォーマンスではなく、本来はあっち(天上)の世界ともつながっているものなのだ。だから何かの行事のためにある踊りを提供するとなったら、まずその踊りを「降ろして」練習し、本番前の「検分式(Thuum' Buw)」を経て、「本番」で披露し、最後に「踊りを上げる」というプロセスを必ず行う。この最後の「踊り上げ」を表わすヤップ語を直訳すると、「踊りを天上に上げなさい(Mu Taey Churuq nga Laang)」となり、まさに言葉そのものなのだ(だから、わたしは「踊り上げ」と訳している)。

また「踊り上げ」のイベントは、踊り手たちに慰労と感謝を差し出すも場でもある。舞台に入場した踊り手らに、まず↑村の長老が貝貨を献上し↑、その後、大勢の親戚縁者や友人らが、それぞれ創意工夫したギフトを持って出てくる。これらのギフトのことは「鳥の餌(Gaan nu Qarcheaq)」と言われるが、(天界からの)感謝の気持が鳥に運ばれてやってきた(あるいは、こっちの感謝の気持があっちに行く)ってことなのかな?(というのは、わたしの想像だけど)。

この日はふたつの踊りが上げられて、それぞれに「鳥の餌」が行われたのだけど、長老の後にしばらく続いた初めの踊りのそれはここでは省略して、パーフォーマンスの映像と踊りの説明を続けよう。
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ヤップの伝統踊りにはいろんなスタイルがあるが、この日に「上げ」られたふたつの踊りは、ガプンゲク(gapngeg)というカテゴリーに入る。それらは身体中の筋肉を緊張させて、非常にゆっくりした動きで踊られる男の踊りだ。

ソル村の、マレイ・ニ・イルウェルという名を持つこのガプンゲクは、ふたつの踊りがペアになっており、ひとつは年配男性によって、もうひとつは若者によって踊られる。この日、最初に「上げ」られたのは、年配男性のバージョンからだった。
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とはいっても、両隣のマ村やマダライ村と合わせても人数が少ないので、年配者の踊りにも若者や子供が混じり、若者の踊りにも年配者が助っ人で入っている。つまり、ほぼ同じ人たちが、ふたつの踊りをやるわけだ。

年配者のバージョンが終わって40分の休憩を置いた後、若者のバージョンが始まった。踊り手が舞台(マラル)に入場後、「鳥の餌」が始まって、たくさんの人がいろんなものを持って出てきて、踊り手の周りを巡っていく...あれれ?
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↑大きなバルーンをもらってる↑子がいるぞ。今までいろんな「鳥の餌」を見てきたけれど、バルーンというのは珍しい。わたしのまわりの参観者たちの間からも驚きの小声が広がり、やがてザワザワとみんなの詮索が始まって(笑)、ようやく遠くのほうから口伝えで、この日がこの子の誕生日だってことがわかって、みんな納得したのだった(笑)。

「鳥の餌」は、踊り手たちの前を一巡して披露されたあと、自分の意図する踊り手にあげても良いが、参観者に投げ与えられることも多い。わたしのところにも、この日、キャンディやパンをつなげたネックレスと、離島の女の人が織る腰巻布(ラバラバ)1枚が飛んできた。ラバラバくれた人にもDVDをコピーしてあげなきゃ...(笑)。
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そろそろ「鳥の餌」セレモニーも終わりに近づいて、↑端っこの小さい子供たち↑が、自分たちの前に置かれたキャンディやパンやラーメンを、嬉しそうに小さなバスケットに詰め始めた(笑)。

そしてバルーンをもらった誕生日の子の前で、弟がなにか叫んでる?「母ちゃん、もう踊りが始まるってのに、兄ちゃんの「鳥の餌」がたいへんだよ!」(下左)。

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そこでバルーンとギフトの回収にやってきた母親...(上右)。さっきの子供たちも、結局、自分らでは処理しきれず、やはり大人が助っ人に乗り出していた(笑)。

やがて踊り手たちの「鳥の餌」がすべて片付けられ、再び場の雰囲気が引き締まったところで、マレイ・ニ・イルウェルの若者バージョンが始まった。
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この踊りは、大昔、何らかの事情でソル村に住みついた離島の男が作者とされている。だから言葉もヤップ語ではなく、ヤップ州離島のしかも古語なので、踊っているヤップ人らには当然チンプンカンプン、現代の離島人でさえ、すぐには意味がわからないという。だから踊り手たちは、言葉ひとつひとつを理解しているのではなく、伝えられたストーリーを斟酌しながら、踊りの所作をやっているわけだ。まあ、わたしから見ても、ガプンゲグは筋トレ踊り、究極のエアロビクスと思えるので、ストーリーは2の次でも良いのかもしれない。
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ともかく、そのストーリーとは、カヌー船団を組んで航海に出た父と息子が、目的地に向かう途中、大嵐にあってカヌーが離れ離れになってしまい、その後、島から島を渡りながら、息子が父を思い、父が息子を思い...という、そういう状況を語っているらしい。おそらく年配者バージョンが「父」の側を、若者バージョンが「息子」の側を表わしているのだろう。

こうして静止画にすると動きを感じにくいけれど、↑これらのすべての動作↓は、すっごくゆっくりと行われる。それにヤップの男の踊りでは、踊り手の両手の平が常にヒラヒラと小刻みに動いていることが要求され、それには手の平だけを動かすのではなく、上腕の筋肉を極度に緊張させて、手の平が自然に震える状態にするのだ。
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年配者バージョンも若者バージョンも、それぞれ踊りは35分から38分も続く。上腕筋の緊張だけでも大変なのに、中腰、抵腰、足上げを延々と、しかも踊り手も唱和する謡は長~いフレーズで(ということは、腹式呼吸の吐く息が長くなり)、これって、太極拳にも似てるかも?

あまり気にしないで見たら、ふたつともまったく同じように見えるのだけれど、よく見ると、若者バージョンのほうが、やはり筋肉のきつい動きがたくさん織り込まれているようだ。動作の激しい踊りよりもガプンゲグのほうがキツイと、ヤップの男たちも認めている。
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今回の「踊り上げ」は、3月のヤップデイで披露されたマレイ・ニ・イルウェルの年配者バージョンと、最近、コロニアで行われたあるイベントで披露された若者バージョンを、合わせて行われた。マレイ・ニ・イルウェルは本来、年配バージョンと若者バージョンをペアで踊らなければならないのに、踊りの持ち時間が限られているヤップデイではふたつを同時に披露することができず、ヤップデイの後、若者バージョンを「本番」に出せる機会を待って、ようやくこの日、両方の踊りを天上界に還すことができたというわけなのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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by suyap | 2011-06-30 23:33 | ヤップの伝統文化
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